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謎BL#真綿

文字色  ‘真綿’


 新堂五月は朝から胃がもたれていた。 サツキだから五番目。上みんな姉さん。サツキは末っ子、唯一のオトコだ。

 昔は姉さん方にど突かれたり過剰に可愛がられたり、大変だった。でもそれももういい思い出だったりする。
 大学三年からの一人暮らしに加え、今年はもう社会人も二年目なのだ。今まで以上に体調管理を万全にしなければ、そう考えるのが五月だった。
 ところで新堂家の長女の夢月は家族や友人にとても優しいのだが、少しだけユニーク、儚げな美女だ。五月は兄弟の中では夢月似、そして美人姉妹の誰よりも品行方正だったりする。何故なら夢月以外の希紗、夜宵、うさぎ達姉上は、とんでもなく型破りだったから。
 しかし五月のそれには一つだけ落とし穴があった。
 
(真綿でキリキリ胃を絞められられ……)
 朝からそんなことばかり考えてしまうほど、胃が重たるいと感じていた。しかも追い討ちをかけるような、同僚の言動行動。普段から(五月に比べれば)変わった人が多いが、皆も春の物の怪にでも憑かれてるのだろうか。いつもよりも質が悪くなった皆さんの、不のオーラにあたった五月は特に疲れていた。
(しかもオレは気づいてしまったんだぁぁぁあ!)
 小さな貿易関係の会社。この間席替えと、少しの人事異動があった。
 五月の周りは特に何も変わらず、強いて言えば周りをお局様グループに囲まれた位か。しかし小さな頃から女の子社会で生きている五月には、少しも問題なかった。
(でも二週間、ずっと違和感を感じていたんだよ~!)
 最近の五月の周りで唯一のピックアップニュースよりも、五月にとって衝撃的な閃きだった。――しかし、正しい。五月の第六感は、外れない。
「あ。さっちゃん、これお願い」
「はい」
 さっちゃんとは五月のアダナだ。そしてこの人は真山みどりさん。
 黒髪を束ね、暗い抹茶色や辛子色のスカートを好む、小柄で地味めな真山さん。眼鏡をかけた三十代の女性。しかし、彼女は、オトコなのだ。
 思い出したのは、資料集めをしていた先程。やっと繋がった。
(彼女は、あのエッセイの抹茶さんなんだよなぁ……)
 去年カラスシスターズ(五月のすぐ上の年子な姉妹、夜宵とうさぎの事である。彼女達は二十代半ばの今も、黒だけのゴスロリを好むのだ)に、面白いからと(この場合面白いのは、可愛い女装子を連れてく姉上達のココロの事である)うっかりコミケに連れて行かれ、五月が唯一買った癒し系マンガエッセイ。
 それ内容は、某流通業に勤める語学堪能だけが取り柄なジミー系OL抹茶(仮)。その正体は、自分は女だろうと(ジミーに)思って(ジミーに)女装で日々を過ごす(しかもベースメイクのみで)松君という人の話だった。場所も横浜市、合ってる。しかも真山さんは韓国語専攻だったらしく、超ペラペラ! 顔立ちは地味めながら、落ち着いた声色と所作はなめらかだ。
(やばいよ! なんでオレこんな大事なこと気づいちゃうんだ)
 別に五月と真山さんの間柄は変わらないが、五月の後輩に当たるトリオガールズは人の噂話がお茶請けなのである。
(あぁぁなんで!)
 さてどうして真山さんは、いきなり男性用トイレを使い始めたのか?


「それはね」
 気がつくとそこは、在るはずがないという噂の医務室だった。天井に医務って書いてあるから、実はあったんだろう。 五月の左腹はやっぱりしくしく痛んでいた。寝ても覚めても、真綿でキュウキュウ締められ続ける感覚はかわらないらしい。
「オマエ、PCにへばりついたまま微動だにしないから、隣になったよしみで連れてきてやったんだ」
 笑顔で五月を覗き込んだのは、人事異動のトピックにあがった人、営業課の花形の那智である。いつもよくわからない感じに(センスよく)スーツを着こなし、地毛だという落花生色の癖毛がはねている。
「それは……、――那智には解るのか?」
「ナンバーワンだよ、俺」
 ふふふん、と軽やかに少しだけイヤミに笑う。
「真山さん、わかるのか? まだ来て三日のお前に」
「うんまあ顔と名前なんてすぐすぐ。さらにオマエのグルグルもな」
「……」
「まあ多分オマエの体調不良は、のほほんとした職場にいきなり俺みたいのがしかも隣で来たからだよ。ストレスだ。まあワガママいわずに仲良くやろーぜ」
「ああうん。別に那智をどうこういう気はないし……」
「あとな、あの部屋はオマエ程デリケートな奴はいないから、気にせずトイレでもお散歩でも行けばいいんだ。仕事はちゃんとこなしてるんだから」
「ああうん。そうするよ……今度から」 窓が開いていた。医務室はあそこにあったのか。窓からの景色でわかった。
「もし平気そうなら、まずはトイレに散歩に行ってこい」
 ――何をいきなり。


「……あ」
 気づいていなかったのは、あまり会社のトイレを利用しない自分だけだったのかもしれない。
 ある女子トイレは故障中。直るまでは、女性は外に出る玄関先のトイレまで降りていくか、男性用を利用する規約に成り代わっていた。
 数年前のリニューアルで、男女個々に洋式トイレが一つずつあるのだ。トリオガールズやお局様はロッカールームが溜まり場である。
 つまり、真山さんはあまりそういうことを気にしないだけの人だったらしい。(なぁんだ)
 ちょっとホッとしたら、真綿はキュー…と、それなりに緩和した。
(でもなんで、那智はわかったの?)
 五月の勘。


「それはね」
 那智は社長の甥っ子、よくあるやつ。 少し前に営業課の後輩がしたヘマを救ったのは五月の勘だった。だから今年は五月の勘を学ぼうと、やってきたのが次期社長・那智である。
「お疲れは精度がくるうから、ダメだよ」
 ふわっとふわり、那智の髪が五月の夕暮れにおどる。
「真綿で外側から攻める。これ常識だよねん」
 自分の全てをかけて、のびのび生きる那智である。


{fin?}
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テーマ : BL小説 - ジャンル : 小説・文学

BL#Classical>Wonderland

 

  マイナスイオン、癒しの場所

 本当は、もう少し早く、一人で行くつもりだった。しかし、何かを察したのかカンナが我が家の前で待ち伏せしていた。まあ、玲フリークのカンナの事だから、どちらにしろエストラージャで鉢合わせだっただろう。長野の一件は適当に土産の買い忘れと言っておいたが、最近忙しくてほったらかしだった。
 俺の気持ちは固まってるから、言おうと思っているが、今日はいいチャンスとは思えなかった。万が一のことがあって、玲に迷惑をかけたくなかったのだ――。

 裏口から鍵で入る。上に向かう。
「こんにちは、玲さん」
 なんとなく、出逢った日と同じなようで、さらにディープな心地さえ感じた。冬琉もいて、パタパタと忙しく動いていた。
「玲、元気そうね。オープンおめでとう」
「ありがとうございます。カンナ先輩」
 冬琉がすげー気迫で、こっち……というかカンナを見ている。
「あら、これサロン? かっわいい~」
「ちょっと頑張って、デザインしてみました」
「玲らしい、優しい感じねっ」
 俺に同意を求めるカンナ。
「ああ。イイ感じに、出来上がってきたな」
 本当は、はやくこれをみて、玲を労いたかったのに。
「はじめまして、カンナさん?」
「あら? 噂の双子ちゃん?」
 カンナに笑顔が広がる。
――こいつら、初めてなんだ?
「ええ。逢うのは初めてでしたね。弟の……」
「冬琉でっす」
 いきなり冬琉がカンナの手を取った。
「テラス、見ない?」
 ――おいおい、ナンパかよ?
 さっさといってしまった。冬琉のタイプじゃないと思うんだけど、女だし。そういう目で眺めてるって雰囲気ではなかった。
「ああ……、また冬琉」
「玲」
 びくっとする玲。
「俺、カンナとは別れるつもりだから」
「え?」
「当然だろ?」
「だって、付き合ってるのに……」
「いやいや、相性はいい方だと思うけど、カンナに忘れらんない奴がいるのは玲も知ってるだろ?」
「うん……」
 ――あれ? 
肝心な俺の真実を言わないと、なんか薄っぺらいかな?と想う。繊細なこいつだから言っといた方がいいのか。でも、今さらそこまで、玲を子供扱いすんのもなあ。……ていうか、二回以上キスを許してる癖に、論点ヘンじゃないか?
――じゃなくて!
「ごめん。そろそろ仕込みだよな? 俺今日手伝うから!」
「え? 悪いよ、っていうか仕事は?」
「俺って優秀だから、今週分消化してるし、けっこう実権持ちだから大丈夫」
 いいながら、たくさんのサロンから一つ選んでつける俺。ちなみに、エストラージャのサロンは、実はご丁寧に藍染だったりする。
「それに、書店の子はホールだけのがいいだろ。キッチンは俺らでやろーぜ」
 黙々と、シーフードの下処理やら新鮮野菜達を切っている俺。フルーツをカットしている玲。あんまり話すヒマはないけど、一緒にいると気が安らぐ、俺。
「玲」
「なに?」
「今日、がんばろーな」
「うん、よろしくね」
 笑顔が、華やぐ――。
 まさか丁度そのとき、カンナ達がすげぇ会話を繰り広げてるとは、全然、知らないけど。
   ※
 玲は書店の女の子三人を借りてきて、二階での指示を与えていた。やっとオープンした。そろそろ昼時だからすぐに満席になりそうだ。
 オープン記念に、今日と、在庫が切れる明日くらいまで、ノベルティを配る。書店ではサロンの共布で作ったしおり、桜刺繍入りを。
エストラージャでお茶や食事をしたお客様には、共布ブックカバーを。もちろん刺繍入りだ。これは俺らのアイディア合作だから、喜ぶ客を見ると、結構嬉しいもんだ。
 ――まあこれなら、ノベルティコレクターもオールオッケーだろ。
 玲の店に貢献の痕跡を残せただけで、嬉しくなる――。
 功労者の冬琉は、教室があるとかで、名残惜しそうに帰って行った。俺に散々悪態をつきながら――。よっぽど、玲と一緒にいられるのが羨ましかったんだろう。
 なにが功績っていうと。昨日の日テレの突撃取材――エストラージャはアルシージャの新業態だから、結構各界から注目を集めていたのだ――玲が恥ずかしがって応対に手間取ってると、丁度様子を見にきた双子の弟が旬の有名人――フラワースタイリストの倉橋冬琉だったから、そちらで撮影を行なったのだった。笑える。
   ※
 一方のカンナは、急にすっきりした――千里眼モードになると、すたすたと挨拶だけして帰って行った。また、カンナになにか変化が起こるのだろうか。一年という付き合いの中でも、いろいろな閃きをすぐに実行に移す彼女は、そのうちどこかに飛んでいきそうな危うさも秘めた、なかなかいい女だった。
 これは後日談だが、すぐにツテを頼って、あの恋人を探す海外旅行に出かけたらしい――つまり俺達は、国際電話で円満別れだった。

  スペシャルカクテル、スミレ
 
 ――ココのすごいところは、ななんと、フラワースタイリストの倉橋冬琉サマ! イケメンですね~。冬琉様のお兄様がオーナーなんですよね?
 ――ハイ。お兄様も雰囲気の違うイケメンですよ~! すごーくこだわって、お店をつくっていました。
 ――うわー楽しみですね! こちらのブックカフェバーは……

「兄バカ……」
「ぶッ……さくら~」
 低血圧なのに、しっかりリアルタイムで、姫様のブランチみてる貴女も……十分兄バカよっ☆

――汐留アルシージャビルの社員食堂をプロデュースしているキハチのケーキやパン、スープを同じように提供しているので、メニュー全体の価格もリーズナブルとなっているようです! これは、老若男女が殺到しちゃいますね。

「食べたーい! ハイハイ!」
「あやめちゃん。今からいくからも少し待って」
と、かくいう私も早く食べたい!

――さらにさらに、ココに! できたての《オムパエリア》がきましたよ。サフランのいい香りがします~。んーこれはたしかに、良い、すばらしいB級グルメです!
――ありがとう! 玲もB級を狙ってたから、喜ぶわァ♪
――でました、冬琉様の姫言葉! ありがたいですね~!

「バーーッカ……」
「さくらちゃーん」
  言葉使いが、悪くなってますよー。

――以上、素敵ポイント満載のブックカフェバー、エストラージャからのレポートでした!

 ゴーン、ゴーン……

 ここんちの大きな古時計が十時を知らせている。
「すみれちゃん、あやめちゃん。行きましょうか」
「「うんッ!」」
 朝ゴハン食べてないから、私たち、ペコペコガールズと化していた――。
   ※
 桜フライング・スパーで、横付け。
 運転手の山田サンはまた来てくれるそうな。
「わー、かわいい。おっきいログハウスみたい!」
「あやめさんは、ごーはん」
「ハイハイ。あ、さくら待って―」
 大学がまだ始まらないから、オープンに来られてラッキー! 夏南のおかげでテスト一発パスできたのだ。でも当の夏南は、ヒロちゃんが珍しく患者さんの風邪を貰っちゃってダウンしたから、さっさと治すのに努めている――。
 私達三人が揃うのは、ライブやイベントが多いから、こういう普通のは久しぶりで嬉しいな。
「あっきらさーんは、どこかなー?」
あやめちゃんを先頭に、続く私とさくら。
 ――あ。
 玲さんと、ワイルド系が、せっせとキッチンで働いていた。様子をみてカウンターに陣取り、挨拶した。
「さくら……来たのか」
「おはよう。おにいちゃん」
 貴重な、さくらが微笑む時――。
 さくらはワイルドな彼に、私達のオーダーを伝えていた。もちろんオムリア三つ。
「おはよ……あやめさんも。すみれちゃん……長野からお疲れさま」
 にっこり、やさしく笑ってくれた。
「いえ、新幹線ですぐですよ~」
 さくらの友達の私は、一方で、長野のバーZEROの唯一のバイトで、玲さんの元想い人――山野夏南の大学の同級生でもあった。
 さらにいうと、瀕死の夏南を救ったことから(?)恋に落ちた、お相手のヒロちゃん――中島浩司(31/職業医師)のハトコとゆう親戚だったりする。
「みんな、来てくれて、ありがとう」
 ハイっと手渡された、ブックカバーとしおり。かっわいい☆
「あやめ、感激~!」
 相変わらずである。大事にしまって。
「そうそう。夏南も来たがっていたんですけど、ヒロちゃんがお熱で……」
 ――玲さん、残念だろうな。
「そう……、それはタイヘンだね。お医者様なのに」
 ――やばい。玲さんすごく心配顔!
「あ、でも、絶対夏南にはうつしませんから! 馬鹿でも医者だし」
 さりげにヒドイ、私。
「玲?」
 ワイルドな……彼まででてきちゃったよ~。超心配されてる、玲さん。
 玲さんも、自分がどんなだったか判ったらしい。
「あ、だいじょうぶ。誉はゴハンよろしくね」
 急に元通りの確かな手つきで、鮮やかにかわいいカクテルを作ってくれた。
「まだお昼だけど、よかったら。今日みたいなスペシャルデー限定のカクテルなんだ」
「わあ。ありがとうございますー」
「いっただっきまーす」
「……いただきます」
 ――甘酸っぱい☆
「シャンパンベースにヨーグルトリキュールと、三種のベリーを散らしてみたよ」
「女性がターゲットですね。イイ感じですよッ」
 いいながら、指を立てるあやめちゃん。
 ――うんうん。
「この上品さ、花びらみたいな見た目も可愛いですね~」
「ありがとう。シェリーグラスで、綺麗な色っていうのにこだわったんだ。カクテルネームは《スミレ》」
 ――えッ!
「……うれしいです~」
「フフ、イメージしたんだよ。すみれちゃんは、いるだけで癒されちゃう、素敵な子だからね」
「……キャー、照れる」
 右のさくらに、エイヤっと埋まってみた。
 タイトなロックテイストが好きな私と違い、さくらのお洋服はいつでもあまーく、ふわふわとしている――。
さくらは今年十八になるから、私の三個下、とってもかわいい。昔から本という本が大好き、というか文字のある媒体ならマンガを筆頭に、チラシ、経済新聞、六法、なんでもござれっていう子だったと、玲さんが教えてくれた。すごすぎ。まあ、今の同人界では、見た目もあいまってエンジェル呼ばわりされてるけど☆
小さいしゆるゆるとした女の子らしい子で、クラシカルなお洋服や甘いゴシック系――ヘヴンリー・ブルーがよく似合う。しかし、大学に入ったばかりだというのに、冬琉さんと似て天才肌で、SAKURA書店の経営チームの一員らしい。
 ゆくゆくはトップだろうから、本当のさくら書店のできあがりだ。「これは絶対おじい様が、洒落でさくらの名づけ親に立候補したとしか思えないねっ!」って冬琉さんが言ってたくらい。笑っちゃう。
「お姉さまも~」
 左手、背後からちょっとだけ埋まってきたのはあやめちゃん。
 凄腕セラピスト&リフレクソロジストが本職で、同人界ではさくらよりも実は有望視されてる。中編BL やロマンスが得意で、クイーンとか女王とかあだ名がついちゃっている。あやめちゃんって呼ぶのは、うちらくらいかな?
 本人は、いずれ作家か、アパレルに進みたいらしく、黒を基調としたゴシックモードスタイルのキス・フォー・サロメを超愛している。さらさらロングだし、長身の美人のあやめちゃんはモデルだっていけそうだ。とっても、うらやましい感じ!
「ハイ、おまたせ」
 ――おいしそーう♪
「僕らで考えたんだ。オムリア」
「……そのまんまの名前だけど、可愛いわ」
「ありがと、さくら」
 いいこいいこしていた。和む光景だ。
 と、羨ましげに眺める、野性味のイケメン。
「ハイハイ! 玲さん、そちらは? 共同経営者?」
 あやめちゃんが、ズバリ。
「あはは、誉はそんなんじゃないよ。立派な不動産屋さんのトップセールスマン」
「あ、早川誉。二十二の、まだひよっこですよ」
「わー、二十二? 大人っぽいから年上だとばかり……」
 と、あやめちゃん。そうそう、あやめちゃんは、四個上のお姉さんである。
「お嬢さんこそ、まだまだ女子大生いけますよ」
「やーねえ、照れる~」
 まんざらでもなさそうだ、アハハ。
「お兄ちゃん、やっぱり、平日でも一人は無理だと思うわ」
「――そうだな」
 なになに? こっちは。
「玲、俺もそう思う。キッチンもホールもいけそうな子を一人か二人雇えば、アットホームに、回せるんじゃないか?」
「うん、いい募集要項でも考えとくよ」
 とろける笑顔で応える玲さん。いつも綺麗でやさしいけど、私達、きっと始めて見た。
 ――お?
 多分、今この瞬間。三人の脳内は、仕事の相談をしているこのふたりを、しっかりとカップリングしていた――。       

   独白――、禁忌とか。
 
 ――頭がイタイ。花の願いが、わからない……。
 最近のオレ。頓に、昔の、中学時代の夢を見る。繰り返し、くりかえし――。あの頃から、天然で女みたいだったオレ。
 星光学院時代のオレ達。玲はずっと地学天文学クラブ漬けだったし、オレはクラブの一クラス上、アート講座の演劇研究生として演劇漬けだった。
アート講座ってのは星光の特色のひとつで、芸術分野の特別クラブがいくつかある。希望して、さらにテストを通らないと研究生にはなれない。学年で一割に満たない人数の、アートのエリートだ。
 別に、スポーツも文科系も興味がなくて、なんとなく入った演劇コースだったけど、周りもナルシストばっかりで、なかなか楽しかった。 
中学三年から高校二年にかけての三年間限定の演劇コースだったが、初年度のクリスマスの集い公演で、いきなりハムレットのオフィーリアに抜擢された。オフィーリアは悲しみのあまり死ぬ――。オレは、外見はもちろんのこと、オーラがぴったりだったらしい。
――あのころは、生き地獄だった。
オレは、既に自分の性癖を自覚していたのに、玲はまだまだ星の王子さまだった。
オレはゲイで、兄を愛しているのに、玲は自分で精一杯な少年で、星を愛していた。
あんなふうに、自分の不幸に早く気付いたりせずに、もうすこしだけやわらかな学生時代を送りたかった。玲みたいに、もっと優しい子になりたかった。
その反面、オレは自分に一番近い存在である玲に抱いてほしかった。瞳を向けてほしかったし、キスしてほしかった。無理な事だけれど。
――本当に、愛だった。
   ※
 推薦で大学が決まった後は、夜ごと新宿で男をひっかけた。嬉しくないことに、見た目がいいから相手に困らず、散々だった。大学は別々だから、この頃から玲のすべてを把握していることは無理だった。
――いや違う。報われないって判っていたから、あえて別にしたんだ。
   ※
 ――最近、誉が気になる。
 おかしなことだった。自分でも変だと思う。だって、玲の幸せの為に、カンナから誉を引き離したというのに……。
 もしかして、いまさら、玲が自分のものになるとでも思っているんだろうか、このオレは。
 ――わけが、わからない。
 喉が渇いて、エストラージャはもうすぐそこだというのに、自販機でミネラルウォーターを買う。ガチャン。固い、蓋が開かない。
 交差点を待ちながら、格闘するオレ。
 今日に限って、ヴィヴィアンのハンカチもないから、蓋が開けられない。
 と、
「貸してみな」
 ――誉?
 ぜんぜん違う声なのに、その時はそう思った。すぐに蓋が緩んだペットボトルが返された。
「ありがとう」
 目の前で一緒に信号待ちしてる奴は長身で、ルックスは可もなく不可もなくの、……まあちょっとかっこいいかな? そんくらいのヤツだった。のんきそうな、日だまり系。
 すぐに信号が変わったので、ソイツは先に歩きだした。オレに返事の手だけをあげて。
 ――なんだアイツ。
 笑いながら、とりあえず飲む。少し落ち着く。
 少し、玲の顔を見るのが憂鬱だった。こんなの、初めてだ――。
 ――それに。
 オレには花しかないのに。最近、うまく集中できなかった。
昔、おばあ様にさわりだけ教えてもらった華道。楽しくて、頭の回転だけはよかったから、持ち前の美への探究心で花を極めた。経営戦略の方のセンスもいかして継いだ形になっている――つまり、運がいいタイプだけど、いつだって、花に対しては誠実でいたつもり。
――どうしよう……?
根本を絶たないと、ダメだろうか。

  さすらいの、料理人?

「あの、表の張り紙みたんですけど」
 ――来た!
 今朝から、スタッフ募集の張り紙をしていた。一番乗りの男性は、そこまで男くさくない……むしろ常ににこにこ笑っていそうなタイプの、接客向きともいえる人だった。ただすごく、髪の色がアースカラーだった。
――淡い黄色……。
「ああ、はい。ありがとうございます。飲食店の経験はございますか?」
「ええ。南の方から、……」
 にこにこ、へらりと笑いながら、今まで携わってきたらしい有名飲食店名をずらずら挙げていく。
 ――すごい……何者なんだろう?
「あ、ではこちらのカウンター席で少しお話、いいですか?」
 ――この人で、決まるかな?
   ※
 キッチンが決まった――。これで一安心だ。
 銘苅 帝(めかる みかど)という変わった名前の彼は二十四歳だという。大学卒業後二年と半年、ずっといろいろな飲食店で経験を積んでいたらしい。おばあさんが中華の達人で、直伝のレシピがいくつかあるという。
「そうなんだ。じゃあ、そのうち何かタパスでも考案してもらおうかな?」
「アハハ。まかせてください」
 ――うまくやれそう……。よかった。
 トントントン
 誰かが階段を上がってくる。
 ――ちょっと早い、お客様かな?
「ゴメン。ゆっくり来ちゃった。お花換える……あら?」
「あ、さっきの」
 ――?
「お友達?」
「ううん。ゆきずりの、親切な人」
「や、なるほどねー。さっき玲さん見た瞬間、オレちょっと固まっちゃったんすよ。アハハ」
 ――全然、そんな風には見えなかったけど。
「今日はオーソドックスにコスモスだよ♪」
「あ、花毎日換えてるんだ。綺麗ですね」
「まあね~」
 ――馴染むの、早いな。
 なんだか、息まであってそうだ。帝くんが、早くも手伝っていた。
「帝くん。今日このまま、働いちゃう?」
「あ、ハイ! お願いします。あと、玲さん呼び捨てでどうぞ~!」
「了解、帝く……帝。今サロンとってくるね」
フフっと笑いがもれる。
楽しくなりそうだ。
――はやく、誉にも逢わせてあげたいな。

《mercy》

 無花果が好きな俺――。ものすごく秋が楽しみである。
 なかなか傍若無人な俺だが、食材の旬までは変えられないのが残念なことでもある。
「いい匂いー」
 果物ナイフでくるんと剥いて、切らずに食べる。切るなんて、まてない。
 ワンッ!
「ちょっと、待てまて」
 まったりうまい。至福っちゃあ、そんな感じ。
 ヴ――ヴ――……
 携帯が震えた。
「ハイ早川」
『あ、オレ、冬琉』
「珍しいな。どしたよ」
『ん、何してっかなーって』
「今? スーパーイチジクタイム」
『へー……、そりゃ悪かった』
「お前なァ、ちゃんと意味わかってんのかよ? 俺様は、無花果が大好物なの!」
『ハイハイ。じゃあ明日、おいしいイチジクのタルトでも食べさせたげるから、オレを迎えに来い』
「プ……意味わっかんね。でもまあ許す。何時だ?」
『明日はオフだから、横浜の自宅な。十四時でいい?』
「了解。楽しみにしとくぜ」
『じゃあ宜しくねー』
 ピッ
 ――なんだろな?
 まいいか。
ふと足元を見ると、ビーストは寝ていた。かまってもらえなかったからか。俺はさっさと風呂に入ることにした。
   ※
 池袋から横浜・山手駅のちょっと離れた辺りまで車を走らせた。一時間以内で着いたから、今日は混まない方だったんだろう。
「おもったより、でかいな」
 やっぱり、それなりのものは、どこの世界でもあるらしい。門構えから、みごとな洋館だった。まあ、入口の門から結構はなれてそうだから、銀杏の木に隠れて、よくわからないが――。
 ブザーを押したら、待っていたのか、すぐに冬琉がでてきた。
「おはよ。ありがと」
「……いえいえ」
「お、結構良いクルマ乗ってんじゃん」
「サンキュー」
「玲もルノーだよ」
 乗り込みながら、教えてくれた。
「やった。お揃いじゃん。お前のは?」
「オレはレンジローバー」
 シートベルト、着用。
「ランドローバー社のヤツであってる?」
「……よく知ってんのな」
「どうせ買うならってんで、昔調べた」
「アハハ。うけるー」
 ルノーのカブリオレ。実用性のあるタイプで、グラスルーフオープンカーだ。オレのセールス成績の証、結構自慢だな。
「じゃ、八幡宮までヨロシク」
「そんなとこに、タルト屋があんのか?」
「そゆこと~」
   ※
 ちゃんと時間通り、流石凄腕セールスマンだ。
「おはよ。ありがと」
「……いえいえ」
 ふーん。カジュアル……今日こいつもホントにオフらしい。一応、玲に聞いたんだけど。年相応に、というか、ややゴシックモード系の服が好きらしい。ゴルチエみたいだった。
 ――意外。でも、似合う……。
「お、結構良いクルマ乗ってんじゃん」
「サンキュー」
「玲もルノーだよ」
 ここの車は、結構きれいめだ。
「やった。お揃いじゃん。お前のは?」
 ――やっぱ、喜ぶんだ……。
「オレはレンジローバー」
 いつ何時何があってもいいように、……なんとなくだけど。花が積みたくなったら積めるよう、ピックアップトラックなレンジローバー。まあ、見た目のワイルドさも好きなんだけど。
「ランドローバー社のヤツであってる?」
「……よく知ってんのな」
「どうせ買うならってんで、昔調べた」
「アハハ。うけるー」
 こいつのもオープンカーの中では、実用性タイプだ。
――オレら、似てるかも。
「じゃ、八幡宮までヨロシク」
「そんなとこに、タルト屋があんのか?」
「そゆこと~」
   ※
 鎌倉には割とすぐに着いた。
 なんとなく、八幡様にお参りにいくオレ達。
「みろよ、冬琉。あんなとこに、鳩がいる」
「え……?」
 ――なんか、初めてまともに名前呼ばれた。
 いつもは、お前、とかばっかだったから。
「あ、ハハ……」
 鳩が神殿の屋根、先っぽの高いとこに乗っていた。
「気高い鳩だなー、お前みたいだ」
「オレ、鳩かよ」
 ふたりで、クスクス笑いがとまらない。

 若宮大路沿いにある、外観がクラシカルなようで、意外にモダンな内装のカフェに連れて行った。鎌倉に来ると、とりあえずいつも寄る《鎌倉 プラチナ》。結構、オレ好みのスイーツばかりなのだ。
「ここが、冬琉ちゃんのお気に入り?」
「うん」
 ――また、言った。
奥の、ちょっと隠れた席に案内された。正月じゃなければ、そこまで混まないから、人はまばらだった。
「俺はもち、無花果タルト」
「オレは、バウムにしようかな……」
 適当にオーダーして、待つ。すぐに来た。
「やべ。超後光さしてる!」
「……」
 ――テンション高ッ!
 まあこんなもんか。二十二なんて。オレより三歳も下か。
「うま。……で、冬琉はどうしちゃったんだ? いったい」
「……! 気づいてたの?」
「……まあな。俺、客の心理読むの得意だから」
「……そうか、そうだよね」
 まだ、自分自身、混乱してるんだけど。多分。
「お前、玲が好きなんだろ?」
「そうおもう?」
「もちろん」
   ※
「気づいてたの?」
「……まあな。俺、客の心理読むの得意だから」
 ――というか、そういう問題でもない気がする。
「……そうか、そうだよね」
 ――俺が、突っ込むべきなのか?
「お前、玲が好きなんだろ?」
「そうおもう?」
「もちろん」
 今日の冬琉は、女の子だった――。性格とかそういう話じゃなく、見た目から。
 思いっきり、普通にメイクだし。ヘアはどっからいつものあの色見つけてきたのか、ウイッグでゆるロングになっている。輝くピアス。
 極めつけは服。トップスはいつものゆるゆる系。てか、色こそ黒のみでモード系だけど、確実に、レースやフリルでボリュームのある《ロングスカート》。
「……オレは自分が、誉を好きなんだと思ってるんだけど」
「……ふーん」
 ――なんでそうなんだ。
 視線をこっちに流されると、愁いがあって、仄かに惹かれた――。
「だとしても、根底は、玲だな」
 断言した。
「そんなんじゃ……、ある」
「だろ? で、とりあえず俺の件だけど、多分、疲れない相手だろ、俺」
「うん」
「お前、きっと、死に急いでるタイプだぞ。あまり、自覚ないだろうけど」
 さらに、周りも気がつかない、やっかいなケースだ……。
「お前、周りを振り回しているようで、実はことごとく振り回されてきたタイプ……なんじゃないかと思う」
「……」
 ――当たりか。
「うん……そうかも。最近、お腹がずーっと痛いしね。ずーっと……」
「ごめん。好きだって思ってくれるのは、嬉しいんだ。ありがとう。……大丈夫か?」
「たぶん。――オレいつもね、フルパワーで生きてるんだ。なんか、そうじゃないと、仲間に入れてもらえない気がして……」
「冬琉」
「今日も、びっくりしただろ? でも、一瞬も顔色が変わらなかった。オマエ、すごいよ」
「いや、あんまりナチュラルすぎて、麻痺してた……」
「フフ……」
 可愛らしく笑うと、ホントに女子だ。
「お前、女装、したっていいんだぞ?」
「うん。そういう人多いしね、今時。でもオレは、めったにしない。課してるから」
「……?」
「オレは双子のリスクもあるし、なにより一番、家族で玲が常識人だから」
 ああ。そうか。ほぼ、おんなじ顔なんだ。
 ――玲が少しマニッシュなだけ。
 もともと中性より女顔のふたりだからな。
「昔なんか、あったのか?」
「とくに、なにもないよ……。だって、一言も言ったことはないし。女装も、演劇とか、ほんのたまに気分でする位だ――」
 ――冬琉が思っているよりは、玲はわかっているんじゃ……。
「なあ、オレ苦しいの、わかる? ゲイの上に、……もし近親相姦なんてなったら、二重のタブーだぜ」
「俺には、想像しても、よくわかんないな。辛そうだな……」
 ――なにより、こいつも保守的なんだろうな。
「巻き込むなんて、できないんだ……」
 ひとすじ、泣いていた。
「そういう考え方は、好きだぜ」
「ありがと……。ただ、好きって気持ちは、本物なんだ――」
 ――そろそろ、言わなきゃだめだ。
 冬琉がこわれる。

  マトリクス、生み出す場所

 その日は、朝から曇っていた――。
 僕は少し、雨が苦手だ。香りも好きじゃないけど、なんだか哀しくなるから。
 夜は、お客さまも少なかった。閉店時間になり、僕と帝はクローズ作業をしていた。
「ありゃ……。玲さん、お花変色してるんで、換えていいですかー?」
「仕方ないよね。捨てよう?」
 ここ数日は、冬琉が来られなくて、部下の人が来てくれていた。
 トントントン
 ――忘れもののお客様かな?
「玲」
「誉。どうしたの?」
 お互い忙しいから、ちょっと久しぶりだった。
「来たよ、玲」
「冬琉、……どうしたの? 疲れちゃった? 顔色良くないよ……」
「冬琉さん? ……確かに、大丈夫ですか」
「どーも、帝」
「玲に、話があるみたいなんだ」
 ――なんだろ?
   ※
 帝が「冬琉さんと、早川さんに」と、三つコーヒーを淹れてくれた。本人は引き続き、カウンターで仕事している。
 僕達は奥の、テラス前にあるグループ席で話し始めた――。
「今日は、久しぶりに女の子なんだね。可愛い……」
「やめて。昔からあんまりみようとしない癖に」
「そんなことないよ」
「冬琉、落ち着け」
 ――なんで。
 なんだか、誉がずっと、冬琉だけみているなんて不思議な気持ちだ。
「玲。オレ……」
「なに?」
 できるだけ、静かに聴いてみた。
「ずっと、玲が好きだ……」
「――うん。知ってるよ」
「……あいしてるんだ」
「ごめん。ずっと、ううん、冬琉が気づくより先に、知ってた――」
 ずっと、先延ばしにしていた。
 この時を。
「子供のころから、愛してたよ、冬琉のこと」
   ※
 隣で、誉の手が、びくりとしていた。
オレも、……必死だった。顔色の変るさまを、帝にみられなくてよかった。
 ――まさか……。
「今も?」
 ――きっとオレとは、愛の種類が違うだろう。
「今は、家族。でも多分、大学上がる前までは、全力で恋してた」
「そんな……」
 なんだか、視界がいきなり潤み出して、頭がガンガンしてきた――。
「毎日毎日、大好きな人と朝も晩も一緒にいられるのは、幸せだったけど。……報われないタブーは哀しかったから、好きな天文に没頭して、逃げてた」
「ほんとうに……?」
「――僕が冬琉に、嘘つくわけないじゃないか」
 薄い微笑だった。
 ――そんな。
 あの時もあの時も、あのときも。オレが辛かったあの頃、さらに昔。玲も同じ苦しみを味わっていた?
 ――そんなの、耐えられない。
 しかも、オレの気持ちに気が付いていた?
「告白しようとは、思わなかったの」
「僕は、選んだんだ。ふたりでタブーをともにする道、もしくは……」
「……」
 玲の綺麗な顔が、哀しげに歪んでいた。
「絶対に、こっちだと思った。未来のために、自立して、お互いに別の誰かを探す道」
 ――!
「僕は、みつけた。誉」
「――とー……るは?」
「大事だから、手は出さなかった」
「――もう戻れないの?」
 ゆっくりと、首を縦に振る。
 ――むり。
 悔やんでも、くやみきれない。
 オレは立ちあがった。なんで、あの頃、ひとこと《好き》と言えなかったんだろう。
 わからない。オレと玲、どちらの考えが正しいかなんて――。オレが愛した玲の考えだ。正しいはずだ。でも――。
 ――どうして一言?
 あの頃、オレの心はどこにあったんだ?
 なにより、なんでいわなかったんだ?
 はやく、少しでも言葉にしていれば、玲が長々と、あんな辛い思いを――報われない愛とか、……感じなくて済んだのに!

 気がついたら、店の外。傍には、帝が来ていた。オレが立ちあがった音で、ついてきたみたいだ。
「つらいね」
「うん。しにそう」
 ハグされた。よしよしって。
「冬琉さん。つかれてるんだ。ちょっと、深呼吸したほうがいいよ」
「……ハハ」
 脳が痛かった。喉も。
 鼓膜もやぶれそうだったし、視界はぐしゃぐしゃだった。
 ――ココロは?
 まだ無理、あと少しだけ……このままでいさせて欲しかった。

  スパイシー・キス

 玲は、頭を抱えていた。帝は、冬琉が駆け出すと眼の色が変わったように、俊敏な動きでついて行った――。
「玲……」
「――これで、いいのかな?」
「……なに?」
 擦れて、よくきこえなかった。カチャリと静かに片手で眼鏡を取る玲。俺は、カタリと立ち上がる。
「綺麗事にしか、きこえないよね。お互いに気づいていた僕が、ひとこと冬琉に伝えればよかったんだ。――でもっ!」
 ――玲。
「……でも伝えたら、自制が利かなくなる。だから。冬琉が苦しんでるのを、見て見ぬ振りしたんだ。最低な保身だ……」
 そういった玲の頬に、はらはらと粒が転がり落ちた。
 ――なんでそんなに、
「おっまえら……、何でそんななんだ……」
「……?」
 玲が、不思議そうに顔をあげた。
「ふたりとも、きれいだよ。最低なんかじゃ……ない……」
 なんだか、喉の奥がヒリヒリした。
「俺には、そう思えるんだ……」
 ――だって。俺にも玲は必要なんだ……。
 目頭まで熱い。でも、俺はもう玲しか見ていなかった。手を伸ばす。玲は、静かな瞳だった。
「ありがとう」
 なんだか懐かしい響きだった。肩に届いた。俺は玲を覗き込んだ。俺達の頬が濡れてた。
 ――シナモンティの香りがする。
 もうなにも、……雨の音さえ聴こえなかった。

ホマレ、愛シイ君ノ名前

「ふたりとも、きれいだよ。最低なんかじゃ……ない……」
 誉の眼が濡れていた。
「俺には、そう思えるんだ……」
 ――誉、泣かないで。
「ありがとう」
 手を伸ばせば、誉の頬に届く。
 ――冬琉、ごめんね……。
 もうこの人からは、離れたくなかったし、――僕自身が、誉のものになりたかった。

 僕が恋した冬琉。
 僕を愛してくれた先輩。
 僕の守りたかった夏南。
 みんな、誰よりも輝いていた――。周りの何にも負けない、そんな強さに焦がれた。
 ――今度は、誉に出逢えた。
 神様が、僕にプレゼントをくれたんだと思う――最初はびっくり箱だったけど。
 どんどんどんどん、好きになった。
 ――僕をみてくれた。
 誉だけが、どんな自分も曝けだせた。……なぜだろう?
 最初がさいしょだったからかな? よくは、解らないけど、ただ胸がいっぱいで。
 ――もう、愛している。
「玲、愛してる」
「……あいしてる」
 膝をついて、背中を撫でてくれた。誉、もう、泣いていない。
 ――よかった。
 誉の携帯を渡された。
「ギフト」
「……?」
 きょとんとしてしまう。
「新規作成で、《ほまれ》っていれて、変換」
 言われた通りにしてみた。
 ――!
「なんでかわかんないけど。ちょっと、うれしいよな?」
変換候補には《誉》と共に、《玲》の文字があった。
 ――もう、大好きだ。






























********
「ごめ。――風にあたって、ちょっとスッキリした」
「――そお?」
 肌寒い、秋の夜。
――いい香りがする。
「あまくて、良い香り……」
「今年もまた……」
「――これが本当の金木犀かァ」
 夢みたいな現実だった。
 カレも、早く悪夢から醒めればいいのにと思う。
「……オレ、もう行くよ」
「冬琉さん、どこへ?」
「帰るんだよ」
「送ります」
「……敬語いらない」
   ※
「――これが本当の金木犀かァ」
 ――?
 幽かな違和感。南って、沖縄とか?
「……オレ、もう行くよ」
「冬琉さん、どこへ?」
「帰るんだよ」
「送ります」
「……敬語いらない」





Classical‐beastly‐
Fin









 華ノ名前


――まだかなまだかな?
私はひとりっこだから、産まれたてほやほやの赤ちゃんをみる機会なんて初めてだ。
ガチャ
「ただいまー」
 ――ヒロ兄だ!
ここはもちろんヒロちゃんち。
「ただいま、待っていてくれたのね。すみれちゃん」
「もちろんです、おば様」
 幸せそうで、綺麗なおば様。そして嬉しさから、輝かんばかりの笑顔のおじ様。そっと、赤ちゃんの顔をのぞき込む――。
「わあ、やっぱりかわいい!」
「ありがと」
 おば様が微笑む。
「もう、名前は決まったんですか?この子」
「それがねえ、この人が優柔不断でまだ決まってないのよ~。今回は譲ってあげたのに……」
「すみれちゃん。この子になんか可愛い、お姫様みたいな名前、ないかなァ?」
「――そうですねえ……」
 まさか、私が名づけ親にされるとは思わなかったから、なんにもリストアップしてなかった。
 ――!
「ひらがなで、《ぼたん》ちゃんなんて、いかがですか?」
 おば様が、
「立てば芍薬」
「座ればぼたんちゃんか!可愛いじゃないか」
 おじ様が満面の笑みで言った。
 どうやら、決定らしい。
「……ぼたんちゃん」
 私はそっと呼びかけた。この子に幸多からんことを――。
 ――フラワーズ、歓迎するわよ?







もくじ


千駄ヶ谷、はじまりの場所
ジャスミン、月夜に咲く
箱庭、花のある場所
ディアマン達のカフェタイム
ビタミンチャージ、混乱
ビタミンチャージ、安定
ミントアイス・チャージ
オレハ滅多ニ人ヲ好キニナラナイ
リバース、真実 ~super counseling time~
リバース、混沌 ~super counseling time~
シークレット、花の咲く場所
スーパー・ハッピーエンド

 とうとい、ひと。




~angel~
~devil~
星ノ名前
納豆ラヴァーズ
甘納豆・チャージ~華の女子大生~
フォルトゥナ、幸運の女神
ジーザス、残高ゼロ
ガーリック・キス
初めてのキス、フォルトゥナ
ソレハ、小惑星ノ名前
すみれと行く、乙女ロード
カナン、君ノ名前
黒クルミ、ニガヨモギ、クローブ

ありがとう――、アプリコット・ラブ

花言葉は、歓喜
ふたりの朝、一味同心




薔薇、花の王 ~rouge~
散る、バラの花びら
ビースト、君ノ名前
ZERO、はじまりの場所
誘導加熱のメニュー
B-612 のバラの花
星、大切ナ城ノ名前
その女、要心。
マイナスイオン、癒しの場所
スペシャルカクテル、スミレ

 生姜の愛。

独白――、禁忌とか。
さすらいの、料理人?
《mercy》
マトリクス、生み出す場所
スパイシー・キス
ホマレ、愛シイ君ノ名前

 華ノ名前

テーマ : 自作BL小説 - ジャンル : 小説・文学

BL#Classical>Wonderland

  薔薇、花の王 ~rouge~

 チリン……
 予期せぬ客が来た――。
「いらっしゃいませ」
本当ならば、彼がこの店最後の客になる筈だった。彼が帰った後も、余韻を感じていたくて、しばしぼんやりしてしまっていた。
扉の影から、ひょっこりと顔が覗く。
「ひさしぶりね、玲」
「カンナ先輩。来てくれたんですね」
 連れがいるようだ。後ろから、野性味溢れる男性が現れる。
「最後にここに来たかったのと。今日はこの人紹介しにきたのよ」
「こちらは?」
「早川誉。クラウン・ハウジングのセールスマンよ」
 僕より優に高い頭の位置。その上くっきりとした目鼻立ちにファッション。――少し、怖かった。

 バーZEROは、大学卒業後、僕がはじめてゼロからつくりあげた店だ。三年以上続けて、まさに今、この店を手放そうとしていた――。
 一個上でソムリエを目指しているカンナ先輩が、大学時代によく連れて行ってくれた重厚感のある落ち着いたバーや、お気に入りのバー。僕はそこでバーテンダーという未来を見つけ、ここまでできる範囲で頑張ってきたつもりだ。カンナ先輩って人はぱっと見とても華やかな人で、本来僕みたいなタイプとつるむのは意外な感じだ。特に今日みたいな、ちょっとセクシーな――先輩お気に入りのアバンギャルド・ドールというブランドの服を着ている時なんか、特に僕との落差を感じるだろう。ただ、僕達が初めてサークルで逢った日は、先輩はビームスのカジュアルラインを着ていた。先輩は服の趣味がその日の気分で一八〇度変わるくらい、自分の中でいろいろとギャップを抱えている人だから、僕のような地味なタイプでも、何か共感するところがあったのかもしれない。
「はじめまして。倉橋玲です」
「早川です、はじめまして」
 力強い、握手だった。鋭い眼光……もちろん、睨まれているわけではないのだが。
「玲、東京の物件紹介してほしいんでしょ?」
「ええ。いきなり思い立って、まだなんにも準備していなかったので丁度いいです」
「ほんとびっくりした。いきなり長野の店閉めるっていうんだもん。せっかく大金はたいて創った玲の城なのに」
「はは……」
 さすが先輩、ズバリ核心である。
「――確かに、良いつくりですね。急に店終いする理由……僕も気になるな」
 早川誉(はやかわほまれ)が言った。今日は平日だけど、休暇で来たのかジャケットとはいえフランクなテイストだ。鈍い本物の輝きのシルバーアクセサリー。黒い艶のある髪は、後ろに流していない。僕にはない、精悍な色気がある。
「たいしたことじゃ、ないんです。やるだけやったし、そろそろ家族の近くで、今度はブックカフェバーをやろうかな……って」
「ブックカフェバー? 玲らしいわね。いいんじゃない?」
 と、誉に同意を求める先輩。
「都会の社会人に、新たな癒しですね」
 と、なかなか好感触だ。うれしい。
「そうなれる様に頑張りたいので、理想の物件をどうぞ宜しくお願いします」
「かしこまりました」
 そういって顔を見合わせた僕達の、未来なんて――まだ欠片もみえない。

散る、バラの花びら

 俺の良いところは、行動力だ――。
「いい加減に、してっ」
「玲さん、俺のモノになって」
   ※
「はじめまして。倉橋玲です」
「早川です、はじめまして」
 ――すごく、俺好みだ。
俺がバイじゃなくても、多分ヨユーだ。その位、その人は中性的……って訳じゃないけど、ノーブルな雰囲気がバリバリあった。
 倉橋玲(くらはしあきら)、名前も似合っている。縁なし眼鏡がもったいないような、あってくれて助かるような、そんな複雑な感じ。
「玲、東京の物件紹介してほしいんでしょ?」
「ええ。いきなり思い立って、まだなんにも準備していなかったので丁度いいです」
「ほんとびっくりした。いきなり長野の店閉めるっていうんだもん。せっかく大金はたいて創った玲の城なのに」
「はは……」
 カンナさん、聴きにくいこともサラッとだ。
「――確かに、良いつくりですね。急に店終いする理由……僕も気になるな」
 こういう金かかった建物を、二十半ば……カンナさんの一個下だと二十五で作れるってのは、なかなか資産家である。
「たいしたことじゃ、ないんです。やるだけやったし、そろそろ家族の近くで、今度はブックカフェバーをやろうかな……って」
「ブックカフェバー? 玲らしいわね。いいんじゃない?」
 と、俺に振ってくるカンナ。
「都会の社会人に、新たな癒しですね」
 と、世辞を言う、立派になった俺様。うれしそうに微笑んでくれたから、儲けたな。
「そうなれる様に頑張りたいので、理想の物件をどうぞ宜しくお願いします」
「かしこまりました」
 そういった俺は、このあとどうやって、恋人のカンナを帰らせて――玲を口説くか、そればかり考えていた。
   ※
「じゃあまた玲、東京で」
「先輩、ありがとうございました」
「いいのよ。かわいい弟ですもん」
「早川さんもありがとうございました。宜しくお願いします」
「こちらこそっ」
 平和的に店を出た。カンナと一緒に新幹線で、東京に帰るのだ。カンナはフレンチの有名店で働いているから、今回の休日も無理やりもぎ取った感じだ。
 プルルルルルルル……
「カンナさん、俺ちょっと用事」
「え? ちょっ、ほまれ?」
 ぷしゅー
 平和に閉まった新幹線。これで、面倒な言い訳もナシだ。俺は今来た道を戻った。
   ※
チリン……
麗しい人は、まだそのカクテル……ワイングラスかな? ――それを眺めていた。
「玲さん」
「あれっ。どうしました? 何か忘れ物ですか?」
「ええ」
「何でしょう?」
「それは……」
 俺はカウンター越しに、玲の顎をホールドして唇を奪う。
「……っ」
 体が熱くなる――。これからだ。
「なにをっ!」
「当然だよな。俺は今日中に、貴方を抱く」
「馬鹿なことを!」
 カウンターから、引っ張り出す。
「いい加減に、してっ」
「玲さん、俺のモノになって」
 ここのソファは、いいソファだ。きっと疲れない――。
「やめっ」
「なにか、哀しいことでも?」
 急に、抵抗がやむ。どこまでも、好都合だ。
 俺はちゃんとドアプレートをcloseにしていた。準備は万端だ――。

ビースト、君ノ名前

 ワンッ……
「ん……」
 ――なんか、吠えてる。
 というか、体の節々がちょっとどころじゃなく、死ぬほど痛かった。
 ――無茶な奴だ……。
 はじめてなのに、男相手は。まあ、無駄な抵抗もしなかった僕も僕だけど。
 でもやっぱ、誉は程度をこえていた――。
   ※
「なにか、哀しいことでも?」
 ――そうだ。
 そのとおりだった。
ノーマルだった僕は、必死に生きる彼を守りたいと想った時から、男を愛する僕になった。でも昨日は、彼を愛することが多分もう報われないと分かった日だった。哀しかった。
「……んう」
 誉のキスは、情熱的で、彼そのものだった。歯列も舐められ、喉の奥まで吸われそうな心地だった。くるしい。
 僕は、どうやら僕が選びに選んだソファで犯されるようだった。
 ――いっそ。
「やるなら、盛大にいこう」
「ああ、いいぜ」
 僕は、床にリードした。誉は、《いこう》を勝手に《イこう》に解釈したんじゃないかってくらい、勝手な振る舞いを連発してくれた。
 盛大に愛してくれたし、盛大にキスしてくれた。本当に、すきみたいに。腰とか奔放すぎて、せめられすぎて気持ち悪くなった僕は、ちょっともどした。
 へとへとになって、そのまま気を失った――。

 ワンワンッ
 空耳じゃなく、本当に犬がいた。チワワだ。
「どっからきたの?」
 僕は綺麗に拭かれて、服も元通りだった。
 ――誉は? もう帰ったかな?
 やわらかい毛を撫でていると、安らぐ、精神が。
 チリリン……
 少しだけ、力がもどる……。
 という、デジャビュを感じた。何故だろう。
「玲、大丈夫そうかァ?」
「残念ながら、全然……」
「ブランチ買ってきた。喰おう」
「うん……」
 サンドイッチいっぱいと、コーヒー。僕用に、野菜スープも。
「ありがとう……」
 温めて飲んだ。身に沁みる。
「ヴァージンだもん。サービス」
 相変わらず、床上の僕達。でも僕の下には、誉のジャケットが敷かれていた。
「……。でも、ありがと」
 誉がゆっくり、瞳を合わせてきた。
「なんというか、調子狂うけど。……とりあえず、今日辺り熱出るから注意しろよ」
「うん」
「さすがに今日中に帰んないと、俺も仕事たまるからさ」
「うん」
「……逢ったばかりの俺に、そんな付けこむスキ与えんなよ」
 よっぽど、物欲しそうな顔してるのかな。
 昨日と大分違う、ゆっくりとキスされた。
「こいつ、ビースト」
「可愛いね。昨日の大荷物の中身?」
「俺の相棒。オスのチョコ&クリームのロング」
「チョコクリーム? だからこんなに美味しそうな色なんだね」
 フフッと、笑いが漏れる。
「……食っちゃったりしなきゃ、そいつ貸してやるよ」
「え?」
「俺の代わり」
 ――ちょっと、照れてる?
「いいの?」
 コクンと勢いよく頷く。
「大事にするっ」

  ZERO、はじまりの場所

 俺の悪いところは、思ったら即行動なところだ――。
 チリリン……
 普段なら、ちゃんと女でも男でも、起きるまで待っていてやるのに……。何故だか、申し訳なくなって、少し散歩という名で逃げて――帰って来た。
「玲、大丈夫そうかァ?」
「残念ながら、全然……」
「ブランチ買ってきた。喰おう」
「うん……」
 サンドイッチいっぱいと、コーヒー。白くて細い玲にはスープ。野菜喰え……。
「ありがとう……」
「ヴァージンだもん。サービス」
 昨日からずっと、床上生活。
「……。でも、ありがと」
 信じられない、心地。
 俺、自分でも結構酷い奴だって、頭ではちゃんと理解してるんだぜ?
「なんというか、調子狂うけど。……とりあえず、今日辺り熱出るから注意しろよ」
「うん」
「さすがに今日中に帰んないと、俺も仕事たまるからさ」
「うん」
「……逢ったばかりの俺に、そんな付けこむスキ与えんなよ」
 お前に、そんな哀しそうな顔をさせたのは、どこのどいつなんだろうな。ちょっと、妬ける。ゆっくりとキスで味わう。
 ビーストがあっちいって、こっち戻ってきた。飼い主の俺がいると、結構静かなこいつ。
「こいつ、ビースト」
「可愛いね。昨日の大荷物の中身?」
「俺の相棒。オスのチョコ&クリームのロング」
「チョコクリーム? だからこんなに美味しそうな色なんだね」
 フフッと、玲が笑った。それだけで、少し嬉しいなんて、どう考えてもおかしい。
「……食っちゃったりしなきゃ、そいつ貸してやるよ」
「え?」
「俺の代わり」
「いいの?」
 頷く俺。
「大事にするっ」
 かわいい、玲。どうすんだ俺――。

  誘導加熱のメニュー

 僕の父は、横浜に本社のあるARCILLA Co. Ltd.(アルシージャ株式会社)の取締役だ。全国規模で、大型書店とフラワーショップを展開している。読書用の椅子や机がどっしりとしているのが、なかなか人気な本屋――SAKURA書店。ネーミングは、創業者である大典おじい様が、妻の倉橋リサからサクラをひねり出したと、父から聞いたことがある。
 一方、都会の女性をターゲットにしたflower palaceは、父が展開した。若い頃にフラワーアレンジメントを嗜んでいた父は、そこで母と出逢い、店まで作ってしまったのだ――。

 現在の僕、新メニューの試作中である。
「なんか、違う……」
 もう、東京に戻ってきていた。ここは横浜の実家ではなく、新宿にある書店の最上階にあるプライベートフロアー。父が泊まったりすることも稀にあるので、ほどほどのマンションレベルの設備は整っている。僕は、日比谷か芝公園の辺りに出店したいと考えていたので、オープンまでは此処をベースにしていた。
 ワンッ
 ビーストを借りてから、もう一週間になる。そろそろ飼い主の誉が寂しがっているかもしれないので、経過報告も合わせて、今日此処で会うことになっていた。
 ピンポーン
 インターフォンが鳴った。書店の女性チーフが、誉を連れてきてくれた。
「忙しいのに、ごめんなさい。ありがとう」
「いえ、玲さん大丈夫ですよ。何か用がございましたら、すぐに呼んでくださいねっ」
 そう言い残して、帰って行った。
「玲さん、もてますねェ」
「そんなことないよ。こんにちは、誉……さん」
 あの時は、誉にそうしろと言われて、名前をほとんど呼捨てしていたから違和感だ。
「誉でいいっすよ。俺アナタより年下ですもん」
 と、今日は営業スタイルの誉。レジメンタルタイもしっくりだし、ヘアはナチュラルに流していてより大人の男って感じである。
「本当に? 僕てっきり、二十七~八かと……」
「まあね、俺偉そうだから。でも今年新卒のまだ二十二」
「そ、そうなの……」
 本当にびっくりした。つまり、僕は年下の男に抱かれたのか。
「えと、お茶でもどうかな?」
「いいね。コーヒーでも……何してたの?」
 と、ビーストを抱き上げながら聞いてきた。
「ん、前の店で、パエリアとか出してたんだけど、ちょっと改良しようかなって」
「へえ。カフェメニューはプロに頼むのかと思ってた」
「うん。もちろんそのほうがいいんだろうけど、少しはアタマひねって頑張りたいんだ」
 ちょっと、恥ずかしい。
「どれどれ」
 早速つまみ食いをしている誉。
「うーん。美味しいけど、都会の舌の肥えた奴らには、ちょっとパンチが足りなさすぎるっていうか……」
「僕もそう思う。少しボリュームも出したいから、オムレツでも載せようかなって思うんだけど……僕、出汁巻きは母直伝なんだけど……」
「オムレツは苦手ってわけ?」
「そうなんだ」
 卵料理は、タダでさえ難しい。
「卵黄と分けた卵白をメレンゲにして合わせるって方法もあるけど……イチイチやんのはめんどくさいし、プロじゃないな」
「詳しいね」
「俺の実家、浅草の洋食屋だったんだ……」
 なんだか、空気が違う。
「そうなんだ」
「ああ。でも、ヤクザに土地目ぇつけられて、結局手放したけどな」
 ――そんな……。
「そんな顔すんなよ。そーゆー幼少時のおかげで、馬鹿な俺でも気合いで宅建取ったんだし!」
「そうか……。すごいな、君は」
「ほまれ」
 ――?
「だから、名前!」
「あ、ああ……すごいんだよ、誉」
 ちょっと照れてる、誉。ビーストを降ろして、こちらにやってきた。片手でコーヒーを飲みながら、辺りを見回している。
「どうしたの?」
「ん?ああ。俺様がいっちょ玲に、プロのオムレツを伝授する!」
 ――え?
   ※
腕をまくり、手を洗っている俺。
「申し訳ないよ?」
「いいから、やろーぜ」
 卵は三個使う。
「カンナさんに聞いたぜ。ZEROはなんだかんだいってマイペースに、莫大な初期費用はきちんと回収したんだってな」
 玲が少し驚いている。カンナさんの千里眼は仲間内では有名だ。
「うん。最初は少し自信無かったけど、リピーターのお客様のおかげかな?」
 ――まあ、納得だ。
 この高貴なのに優しい人を知ったら、また逢わずにはいられないだろう。
 
オムレツをやるときは、タオルを用意。ボウルに卵を割り入れ、塩胡椒をしてときほぐす。フライパンを熱し、よく油をなじませる。
「くっつかないように、よく馴染ませろよ」
バター一五グラム程度を入れる。
「温度は、このくらい」
 卵をひとすじ、すぐに固まる適度な温度。
「いくぞ」
卵を入れたら、菜箸でくるくる半熟スクランブルにする。液がない程度に、固すぎも柔すぎも駄目だ。半熟状態のままフライパンを向こうへ傾け、卵の手前半分を向こう側に返す。ちなみにフライパンは左手の平を上に向けて持つ。小指がうまくひっかかる。
「トーントーン……そんくらいのリズムでいいんだ」
 タオルをフライパンの持ち手に引っ掛けると、根元に落ちる。ソコをトントンと右手のこぶしで軽くたたいていく。こちらも小指が辛抱だ――。向こう側のフライパンの丸みを利用しオムレツを一回転。目立たなくなった継ぎ目が上に向いたら、右手に持ちかえてすぐに皿にうつす。できあがりだ。
「久しぶりの割には、まあまあだな」
「すご……。鮮やかだね」
 艶のある、黄色いオムレツ。形も細長く、理想的だ――。
 菜箸で、割る。中から、半熟がトローっと流れてきた。
「キレー……」
 玲が嬉しそうだ。俺も嬉しくなる。
「さっきのパエリアに乗せて、ウスターソースでもかければ立派なB級グルメの仲間入りだな」
「そうだね、いいかも!」
「喰えよ」
 スプーンにひとくち、とってやる。
 玲が素直に、口を開けた。
「ん、おいしい」
 ――超、エロい。
あえてスプーンを舐めて、反応をみる俺。
――お、恥ずかしがってる。面白ェ。
「玲……」
 ――こっちのが、イイ。
 我慢なんて知らない俺は、一週間ぶりの甘さを味わっていた。

  B-612のバラの花

 ――好きだ。こいしてる。
 俺がそんなことを考える日が来るなんて、思いもよらなかった。手のひらには、玲の頬。眼鏡も苦にならない。優しくするから――。
「あのな、物件のことなんだけど……」
「うん……」
 こころなしか、玲の瞳がより優しく輝いている気がするのは、期待してもいいんだろうか?
「ハイハイ、失礼しまーす!」
 ――!
 ノックもせずに、侵入者現る。玲の肩がびくつく。音で反射的に手を離した俺。
「きゃ、前が……ちょっと玲助けて~」
「冬琉……、大丈夫か?」
 どうやら関係者らしい。両手で大きな花瓶を抱えている。芙蓉が沢山生けられていた。
「よいしょ……と」
 花の香りの中、件の人の顔がやっと見える。そのまま美しい、芙蓉の顔をしていた――玲と似た顔立ちで。
「あれ? どなた様?」
 アッシュピンクがかったブラウンの髪はさらさらと肩まであり、ハーフアップにしていた。耳のルビーのピアスだけ、自己主張している。薄くナチュラルすぎるメイクでも、涼しげで綺麗だ。
「今打ち合わせしていたんだよ。こちらは不動産屋さんの早川誉さん」
「はじめまして」
「ふーん、はじめまして! 倉橋冬琉です、花屋やってます」
 幽かな違和感を与える不思議な子だった。
「物件見るまで、ちょっと待っていてくれる?」
「いいじゃん。オレもみる!」
 やっぱり。オトコか?
「誉さん。この子は僕の弟、見てわかるだろうけど双子なんだ。flower palaceの取締役で、お花の先生もしてるんだ」
 こころなしか、活き活きしている玲。ちょっとブラコンなのか?
「それは華やかでいいですね。すごく似合いのお仕事だ」
「それより、誉さんかっこいーね。オレみたいなのは、タイプ?」
「ちょ……冬琉! 失礼だよ」
 冬琉は、ゲイなのか?
「はは……、ありがとうございます。もちろん男女問わず、美しい人はとてもいい目の保養ですよ」
「ふうん?」
 ワンッ
「わあかわいい! これ誉の犬ッ?」
「ビーストっていうんですよ」
「オレに敬語使わなくっていいよ。ビースト~」
 いきなりビーストの虜になったらしい。忙しい子だ。
「誉さん。みせてください」
「ああ、ハイハイ」
 二、三点資料を取り出す。
「実は、玲さん好みのが二点あるのですが」
「本当に?」
 ちょっと頬の色が変わる。ばら色だ。
「ええ、こちらは日比谷の方」
「あーうん。こんなかんじです」
 玲の笑顔にドキドキする。
「もう一点、お薦めの芝公園付近です」
「……これ、いいな」
 少しトーンダウンする俺の声。
「ただ問題がひとつ。最近採用した設計者のミスで、ここはちょっと保留になってるシークレット物件なんですよ……。でも、絶対気に入ると思って――」
「そうですか……、無理を通すのもよくないしな」
「なになに? 気に入ったんならウチが改修でもなんでもやればいーじゃん。そのほうが誉もよろこぶっしょ?」
 満面の笑みで飛び込んできた。
「そんな……、この物件を外部に持ち出させたのさえ申し訳ないのに」
「いえ、気になさらずに。おっしゃるとおり、金銭面がネックになっているのは確かなので、もし本当に気に入ったようなら話を詰めていきましょう――」
 思いがけない方向に、転がり始めた。

  星、大切ナ城ノ名前

 今回はいろんな人の頭も借りたけど、それでもZEROを造った時くらい大変だった。でもいよいよ本日、僕の店は、緑が多い芝公園に程近い場所にオープンである。
 朝の九時――まだ、下の書店のマネージャーも来てない……僕だけだ。もう少しだけ、店をひとり占めしたかったから、仕込みよりも更に一時間も早く来てしまった。
「うれしいなぁ」
 思わず口にでていた。……まあ、いろいろ大変だったのだ。
 大枠は僕が考えて行動したけど、ZEROと違って結構冬琉がブレーンを率先してやってくれたから、とても有難かった反面、いろんな人に対しての押しの強さを約三年ぶりにみて、あらためて胃の痛い思いもした。まあ、冬琉のアレは昔からだけどね。あはは。
 誉さんにも尽力してもらったし、オムレツ以降、なんだかあんまり関係ないコトまでいっぱい助けてもらった気がする……。店内のレイアウトの相談とかにも、のってもらっちゃったしな。
 ZEROで重厚感っぽい正統派はとりあえずやってしまったし、なんとなくもっともっとリラックスできるカフェバーにしたかったから、あえてナチュラルに、和洋折衷っぽくしてみた。
 外観は木造風の二階建てで、手前の左右がお客様の出入り口のドア。すぐに書店のレジだ。つまりガラス張りで、外からはレジスタッフの後ろ姿が見え隠れしながら、今週のセレクト本と、おじい様が趣味で作ってくれた木彫りの看板が置いてある。店名が鮮やかに浮き出ている上に、バラまで彫ってある。本当に器用で多彩な人だ――。
 店の名前は《Estrella de SAKURA書店》。Estrella(エストラージャ)――スペイン語で《星》って意味だ。
ちなみに社名の、ARCILLAの意味は《粘土》。ここから社員皆で自由に会社を創造できるように――っていう願いだ。
二階の手前三分の一は、テラス。全天候型だとちょっといいすぎだけど、小雨好きさんならテラスが使えるように、たっぷりゆとりのある屋根をつけた。もちろん、暗くなっても本が読めるように、外灯と、テーブルごとにもランプ型の電灯を用意した。

明るいジャズの似合う店にしたかった。
一階はSAKURA書店初の小型店舗を入れてもらった。僕が一から、本や絵本を選ぶのも愉しそうだと思ったけど、せっかくだから妹のさくらに任せてみた。
 左の壁に沿って、トイレとスタッフルームがある。いちばん奥には階段――ここからは僕が選んだ本を、並べるようにしている。ちなみに店内の本は、誰でも読んでいい。ただし、他のSAKURA書店の大型店舗と違って、読書用の椅子を一階には設けていない。何も頼まなくてもいいから、二階でゆったり読んでほしいのだ。代わりに、コミックスの類も透明カバーは掛けてないから、サッと立ち読みして買いたいお客様は自由にしてもらえるよう配慮をしたつもりだ。
 階段を上がって二階、ここは僕のエリアだ。
 上がって右手――一階でいう左の壁側の一帯がカウンター席と、長細いキッチンエリアだ。全体的にテラスからの日の光が当たるような設計で注文した。中央は、テーブルセットや低めのシェルフが並んでいる。もちろんシェルフには本が飾ってあるし、棚の下の方は、お客様の荷物を入れるスペースもある。
屋根裏が、エストラージャのスタッフルームだ。
壁掛けは、星の王子さまやダヤン等のお気に入り達を厳選した。全体的には、どこかの一軒家みたいなイメージでつくってみた。
 SAKURA書店のドレスコードは、社員はボトムも茶か紺か黒と決まっているが、アルバイトならカラーパンツなどでもオッケーである。少し、他の書店よりは緩めだ。一応シャツは、薄いピンクのシャツが配られる。まあ、どうしてもピンクが苦手な男性社員は白でも可である。女の子には、人気があるみたいだけどね。
 最後にエプロン。これは濃紺で、胸の中央には、桃色とえんじの二色使いで《桜の花》のなかなか美麗なロゴ刺繍が入っている。
 一階の書店さんは、いつものドレスコードでお願いした。エストラージャもそんな感じにしようと思い、僕は茶のパンツと麻のシャツ、そしてオーダーしてできたばかりのサロンを眺めていた。
「ん……、まあまあかな?」
 濃紺のサロンの右半分の、中央から裾にかけて縦のラインで桜を散らした刺繍が入れられていた。結構、綺麗だ。
 今日は、僕と書店からのヘルプで二階を回すことになる――。
 ぼんやりとメガネを拭いていた。
 ガチャガチャ
 階段下の裏口から、誰か来た。冬琉だ。
「オハロー! 花持って来たよ」
「おはよ、ありがとう」
   ※
 さっそく、テラスの植物の調子も見てくれて、テーブルごとの花もセッティングしてくれた。今日は、うすピンクのダリアを水に浮かべるみたいだ。
「フフ、きれいだね」
「でしょ? 今日は重陽だからね。キク科のダリアちゃん。後で、お祝いのお花もちゃんと届けるからね」
「ありがと。既に、父さんと母さんからは桜の苗木が届いてたよ……」
「好きだねー。あの二人も」
 冬琉が普段ベースとしているのは、flower palace銀座本店ではなく、汐留に三年前に建てたばかりの新館《queen rose》で、執務やフラワーアレンジメントの教室を行っている。ここから車で五分くらいだから、本人か部下の人がお花を毎日届けてくれると言っていた。
 ――そろそろ、準備始めようかな?
 そう思って、僕もジャズのCDをかけていた時、また、誰か来た。
 ガチャガチャ
 スペアを持っているのは、あとは誉さんしかいない。
「こんにちは、玲さん」
カンナ先輩も連れ立っていた。
 なんとなく、出逢ったあの日の、デジャヴを感じていた――。

  その女、要心。
 
 ひと目見て、少しイヤな予感がした。
 オレっていうより、玲にとって。
 だから、攻めに出ることにした――。
「玲、元気そうね。オープンおめでとう」
「ありがとうございます。カンナ先輩」
 ――!
 この女が、知らないうちに玲をバーの虜にして、オレから玲を長野なんて遠い所に引き離した張本人か。
 黒いセミロングの巻き髪が、嫌味にならない美人だ。ビームスの新作を着ている。でもどんなにスタイルが良くても、服の趣味が良くても、オレの食指は動かない――。
「あら、これサロン? かっわいい~」
「ちょっと頑張って、デザインしてみました」
「玲らしい、優しい感じねっ」
 そう、隣の誉に同意を求めている。ていうか、近い。
「ああ。イイ感じに、出来上がってきたな」
 確かあのサロンは、誉もアドバイスしていた筈。なんだか玲が、珍しく落ち着かない様子だ。かわいそうな、玲。近づく、オレ。
「はじめまして、カンナさん?」
「あら? 噂の双子ちゃん?」
 ぱあっと笑顔が広がる。意外に華やかな顔立ちだった。
「ええ。逢うのは初めてでしたね。弟の……」
「冬琉でっす」
 オレは挨拶もそこそこに、カンナの手を取った。
「テラス、見ない?」
   ※
「まあ、いっぱい!」
 そう、テラスの割に豊富な種類の花やハーブが植わっている。
「カンナさん。誉の彼女?」
「まあね。結構長くて、一年は続いてるよ?」
 ふーんって感じ。
「これ、すみれ?」
「それ、間違って混入した虫取菫だよ」
 ――ウソだけど。
「え? きゃ、やだ」
 テンション低いオレ。きっと、可愛くない、とか思われてるだろう。
「……ねえ。玲の最初の相手って、カンナさん?」
「……」
 ありゃ。これやっぱ、ヒットかな。
「……そうよ?」
「ぶしつけで、ごめん。だって玲、大学卒業の辺りで、急に独り立ちしちゃったからさ……」
「うーんと。玲と出逢った頃はいろんな人と付き合ってたけど、私が先に卒業して……なんとなく玲が恋しくなっちゃって、その頃に私から付き合ってもらったの」
 そうか、そうだと思っていた――。
「玲が長野行くまでの一年は、優しい彼氏がいて、幸せだったわ。でも、玲の準備を手伝い始めた頃に、元彼が急に海外から帰って来たの……モトサヤよ」
「玲と別れたってワケ?」
「ええ」
「……」
 気になっていることが、あった。
「カンナさん。本当は、もっと可憐な服のが似合うだろ?」
 カンナが、驚いていた。
「それも、知っているの?」
 ――なんのことだ?
   ※
「私、その元彼とは、今もまた離れ離れなんだけどね」
「うん」
「よく消えちゃう人なのよ……。幼馴染で初恋だったから、十九の時、最初に居なくなっちゃったとき……私、哀しくて気が狂いそうだった――」
「うん」
 最初少し話していた誉達は、今は落ち着いて二人で仕込みをしていた。
「その頃友達のお姉さんが立ち上げたブランドが、アバンギャルド・ドール」
「今、知る人ぞ知るソフトセクシーな?」
「それそれ。レアサイズが偶々合ったから、いっぱいサンプル送られちゃって。仕方なく着てみたら……なんだか、パワーが出てきたの。それからは、もう、戦闘服ねっ」
 そういって笑うカンナは、ちょっと吹っ切れた感じだった。
「オレも……、判るよ。そーゆーの」
「なんだか、似てるのよ。私達」
「そんな感じだよね」
 ――ハア。スッキリだけど、まだまだ。
「なら、わかるよね?」
「……ええ」
 ちょっと、納得いかなそうなカンナ。
「オレ達は、玲が大事だろ?」
「玲は大切な弟! でも私だって愉しかったのになあ?」
 二人とも、チラとキッチンを盗み見る。
 緊張の糸を引っ張りながらも、愉しげなふたりがいた――。
「誉みたいな本能で動くタイプは、付き合ってて疲れないから、好きだったのに~」
「そろそろ、元彼帰ってくるんじゃない?」
「そんなうまくいくかな~?」
 ふえーん! と泣き真似している。
 ――いいじゃん、そっちは。
 オレなんて、まだまだ、待たなきゃなんだから――。

つづいてます!

BL#ビタミン

ビタミン・エンジェル







































~angel~

 ふぁああ……。ねみィ……。
 ――ん?
 前方でぶっ倒れた輩がいる。――ちなみに俺は腐っても医者だ。サクッと患者の元へ。
「大丈夫ですかっ?」
 抱き起こす。顔を覗き込む。
 ――これは……。
 栗色頭の天使だった。細身のカラダに小さな顔がちょこんとのっている。眠れる天使なので大きな目の色までは判らないが、縁どる睫は濃い。
「――んう……」
 ――お目覚めか?
「おなか……」
「腹が痛いのか?」
 俺は外科だ!
「……すいた」
――!
 
 ~devil~

「大丈夫ですかっ?」
 だいじょうぶ……じゃない。
「腹が痛いのか?」
 いたいんじゃ……ない。
――神様、助けてくれるの?

「はー。食った食った!」
 ずっと飢えていたからな。オレは米をたらふく食わせてもらった。
 ――この親切なおっさんに。
 オレはおっさんを胡乱な目で見る。
「ゆっとくけどな俺はまだ、三十ちょいのイケメン医師だぞ~。ナースにはヒロせんせ(はーと)って」
「ハァ?何いっちゃってんの?んな髪のばしちゃって」
 確かに身長バレーの選手かよっ?て位あるし、モデルな感じを醸しているけど、なんだかだらしない。特に、セミロング位ありそうな髪!後ろで軽くポニーになっちゃっているし。
「もうヘーキなのか?おまえ」
「まあね。ゴハンありがと!」
「ちゃんと挨拶はできるんだなっ」
「親の躾がいいからね」
ちょっとムッとしていい返す。
「ふうん?の割には、大したメシも食ってないみたいじゃないか」
 ちょっと詰問スタイルだ、めんどくさい。
「関係ないだろ」
「なにおうっ?俺様が食わせてやんなきゃ、おまえ野垂れ死ん出ただろっ?俺の病院敷地内で!んなことゆるさねーぞ」
 そうなのだ。オレはあろうことか、大学の隣の病院の芝生につっぷしてしまっていたのだ――。

  星ノ名前

 高校の頃の新聞配達のシゴトに比べたら、大学に入ってからこっちにきてやったバーテンダーのシゴトのがよかった。
「僕、夏南を愛しているんだ」
「玲さんの事、尊敬しているけど、そういう意味で好きにはなれない……」

 オレ、山野夏南(やまのかなん)は、そういってバーを出た。二週間前のことだ。つまり、マスターに告白されて振ってしまったオレは、無職になってしまったのだ。オレにとって、無職はかなりヘビーな死活問題だ。
 オレんち――実家は、東京巣鴨で佃煮屋をしていた婆ちゃんと、シングルマザーのかあさんとオレの三人家族だった。
 かあさんはオレが三歳のときに酒飲みが主な原因で乳ガンになった。ただ、早期発見できたから、腫瘍のみ摘出する手術で済んだ。
 しかし、オレが一三歳の時に肝臓に転移したガンが発見され、かあさんはその年に帰らぬ人となった――。
 つまり、年金暮らしの婆ちゃんとオレのみ。だけど、オレはかあさんをガンで亡くした悔しさから、いずれは医療の分野に就きたい――つまり大学に行きたいと考えていた。
 都立高校に通いながら、勉強して、働いた。なんとか長野の薬学部のある私立大学に、奨学生として入学できた。
 生活費はバーテンダーで稼いだ。カクテルの作り方から、接客の仕方まで、全て玲さんに教えてもらった――。
 
 マスター、倉橋玲(くらはしあきら)さんは、最初からいいとこの坊ちゃんという印象だった。縁なしの眼鏡がさらりと似合う、クールな美人だ……男に美人ってのもヘンな話だけど。いつも心地いいアルトの声でいろんな話をしてくれた。
 玲さんとオレの共通の熱い話題は天体観測だった。オレは、もし人並にサークルに入れる生活レベルだったら、本当は天文サークルに入りたかったから、ちょっとマニアなネタでもさらっと話せるのはすごく楽しかった。
 母親の居ないオレは、心のどこかで玲さんの優しさに頼っていた。依存していたし、オアシスだった。
こんなことになって、もう顔見せ出来ないけれど、玲さんはオレには確かに必要な友人だった――。

  納豆ラヴァーズ

 ――納豆は、大粒に限る。
「ちょっとアンタ、母親の話ちゃんと聞いてるの?」
――俺様の至福の時を、邪魔するなー。
「浩司ッ!アンタいい加減にしなさい!」
「チッ、んだよ。また見合いかよ?」
「そうよー。だってアンタもう三十一にもなるじゃない」
 最近三日と開けずにこうだ――。流石に優しいイケメンの俺でもキレたくなる。
 俺、中島浩司は職業医師、というか若くして長野の大学病院の院長だ。これは、八歳下の従兄弟で本家筋の久遠尊(くおんみこと)が、『超売れっ子イケメン心理系作家』とかゆーわけわからんジャンルのベストセラー作家になったから、棚ぼた式に医学生だった俺にお鉢が回ってきたカタチだ。つまり、ラッキーである。
「ちょっとヒロ!今日はねー、最終兵器よっ黒船よ」
「まだいうかっ!」
 ――どうせまた、なんとか物産の令嬢だろ……。

「どっかーん!黒船すみれ。来航よッ」
――……。
「かあさん。手抜きにもほどがあるだろ」
「ちょっとそれどーゆー意味よ?ヒロちゃーん?」
「おー、コワ!」

すみれ――中島すみれは、ハトコだ。この辺りには、昔から親戚がわんさといるから、イトコもハトコも、兄弟とあまり変わらない。
「ま、ね。ヒロは性格バカだけど、お医者様だから結婚してあげなくもないわよー。オーホッホ☆」
「いや、断る。お前みたいなマニアック娘は、楽しむ分にはいいが、嫁となるとちょっと荷が重いぜ」
 そう、すみれは、見かけはソフトギャルの趣でちょっとしたお嬢様らしく、ツインテールも嫌みなく似合う。だがしかしお嬢様らしく、ものすごい凝り性で、オタク~電波~小悪魔~婚活等など、幅広くこなすパワフル娘なのである――。
「ひどいな……ヒロってば……しくしく」
 芸も達者である。
「まあまあ、オマエも朝飯食うか?」
「うん☆食べるっ!……てかまた大粒食べてるの?」
「日本男児の朝は大粒だぜ」
「あら?小粒よねェ?すみれちゃん?」
「そうですよねェ?おば様」
 ――どーせ!

 あ~あ。アイツの大粒食べっぷりに、また逢いたいぜ。

   ※
「あ……」
 納豆ふりかけである。
――本当にこんなもん売ってるんだ……。
 オレは今、飢えをしのぐためにスーパーの試食コーナーで生息中である。
 ――あのおっさん、また大粒食わしてくんないかな……。
 ひきわりより、得して食べた気がするから好きだ。あいつ――ヒロだったかな……は、『納豆に闘魂しているッ!』と言っていた。
 坊ちゃんらしく、鎌倉から納豆を毎週取り寄せているらしい……くそう。

あーあ。腹減ったあ!

  甘納豆・チャージ~華の女子大生~

「あれ?夏南じゃない。ずっと休んでたの、どうしていたの?」
「すみれ……」
 ヒロちゃんちで朝御飯をいただいて、そのまま一限の教室に向かったら、クラスメートの夏南が机につっぷしてた。
「ちょっとアンタ、もともと細いのに更にへっちゃってナイ?」
「バイト……ちょっと玲さんともめて、金ないんだ……」
 玲さんは夏南のバイト先のマスターで私もよく知ってる。というか、玲さんの妹のさくらとは、《ある趣味》の四年来のトモダチだから、夏南よりも先に知っていた。
 さくらは横浜のお嬢様だから、たまにしか逢えないけど、軽井沢の別荘に来るついでによく逢いに来てくれる。
 玲さんはお坊ちゃんながらに、自分の店を自分の理想に近づけようと、家族と離れてもう何年も、ひとりで頑張っていた。
「つまり、食べてないのね……?」
「う……ん……」
 夏南はいつもはパワーがある眼を、今日は鎖し気味だ。この子は意思を持って大学に来ているから、他の子とは違って普段はサボったりしない。そんな頑張り屋さんの夏南を、玲さんはずっと好きだったのだ。なんで知っているのかというと、全部マルッとさくら情報!
――多分告ったんだわ……。
「ならサッサと私でも誰でもいいから頼んなさいよッ!アンタ友達多いんだから!」
「あ~。う~」
「もう!なんか持ってないかな……私――、あ!」
 これこれ、さっきヒロちゃんに無理やりお薦めされた鎌倉の甘納豆。私洋菓子派だからいらないっていったのに――。
「アンタのことだから、ハーブ学だけはでたいんでしょ?あとでランチご馳走するから、とりあえずこれで凌ぎなさい!」
「サンキュー……すみれ、恩にきる――何これ……?」
「……?」
パリッと袋を開け、もそもそと食べ始める、夏南。
「こないだも……納豆好きに、助けられたんだ……」
 ――へ~。
「……いっとくけど、乙女なすみれは洋風なゴハンのが好きよ?」
「あの人白衣着てたな……」
 ――ふーん、白衣……。いやんどうしよう。白衣の納豆バカなんて一人しか思いつかないッ。
「あそーだ。大学病院の医者なんだアイツ」
 ――やっぱり。
「ゴメン。その甘納豆、その納豆バカに貰ったやつ……」

  フォルトゥナ、幸運の女神

「アンタのことだから、ハーブ学だけはでたいんでしょ?あとでランチご馳走するから、とりあえずこれで凌ぎなさい!」
 オレの趣味友すみれ、流石に付き合い長いだけあってよくわかっている。悦見センセのハーブ講は、他のセンセと違って語りかけてくれるから一番好きだ。
「サンキュー……すみれ、恩にきる――何これ……?」
パリッと小気味良い音がたつ。久しぶりの感触。
「こないだも……納豆好きに、助けられたんだ……」
「……いっとくけど、乙女なすみれは洋風なゴハンのが好きよ?」
 ――あんな頭の白衣、新鮮だったな。
「あそーだ。大学病院の医者なんだアイツ」
「ゴメン。その甘納豆、その納豆バカに貰ったやつ……」
 急にしおらしくなったすみれが言う。
「何?配ってたの?オレ貰ってこようかな」
「……ちがーう。親戚なのよ」
 ――へー。
 あのヘンな医者が、すみれの……。そう思ったら、声を殺して笑うのは無理だった。
「まじかよ、すみれ!」
「まじよー、まじなのよー。あんまり知られたくないから、言ってなかったけどね」
 たしかに、ちょっとしたお笑いスキャンダルだ。お嬢だと思ってたが、すみれの親戚はもしかしたら大学の経営者かもな。
「まあ、言ったりしないから安心しろよ」
「うん、夏南だから信用!」
 ――ありがとうな。
 すみれは、オレと違って苦労なくのびのび育った良い子だ。ちょっと羨ましいし、ちょっと眩しい。
「というか、アイツにも礼言っといてくれな。一応、二度も助けられたから……」
「いいのよ、そんなん」
 アイツもすみれと同等か、それ以上の地位とか名誉とか……あるんだろうな。住む世界が違うな。

  ジーザス、残高ゼロ

「ご趣味は?」
「音楽……ロックと、茶道を少々」
 にっこり笑顔で応えてあげる、お人よしの俺様。
「浩司、岬さんにお茶でも点てて差し上げたら?」
「ハイハイ」
 よっこらせっと。俺は尊がくれた、マイ袱紗を想いながら、自分の世界に入って行った――。

俺が茶の湯が趣味なのは本当だ。高校の時、軽音と茶道部で兼部して、茶道部の女の子達と仲良くやっていた。
 この場合、よろしくやっていた……という意味ではなく、恋愛相談とか……だ。
 俺は根っからのタチで、そのころからやんわりと男遊びをしていた。
 将来は、せっかく勉強するなら医者にでもなって、親を安心させて、俺もそれなりに暮らそうと思っていた。――もちろん、男のパートナーと。
 しかし、病院の経営者ともなると話が別だ。いろいろ面倒だから、跡継ぎが必要になってくる。
 棚ぼたなのだから、お返しすればいいようなものだが、そうもいかない。本家の尊は生い立ち複雑クウォーターな一人っ子で、もともとの院長の子じゃない。奥さんの連れ子だ。
 尊はもとから綺麗でデリケートだったが、母を亡くした後は結構ひどいもんだった。俺にしか心を開かない。俺も尊が可愛かった――。
でも、最近遥っていう最愛の男に出逢ってしまったらしい……。
 
 俺は何も、女がダメっていうわけじゃないからこうして見合いくらいしてやるが、できるならば自然に惹かれる相手に出逢いたいのも事実だ――。
 と、そのとき。 
 プルルルルルルルルル
 ――急患かな?
「……ちょっと失礼。はい中島」
「ヒロちゃん、大変!」
   ※
ついてないどころの話じゃない。
 これからどうしたらいいのか――。

 あの後、すみれに学食で大盛定食を奢ってもらった。すみれは、成長期なんだからもっといいもの食べさせてあげるって言ってくれたが、空腹も限界だったので、学食にしてもらった。
「ほんと夏南は遠慮しいなんだからッ」
「そんなことないよ」
 久しぶりに、腹いっぱいで少しだけ元気が戻ってきた。思考力も。
「ちょっと新たなバイトでも探してこようかな」
 大学入学からの二年と少し、ずっと玲さんのバーで働いていたから、もう選択肢が無いような気になっていたが、よく考えてみると他を当たれば薄給でもなにかあるだろう。
「元気になってよかったわッ」
「うん……。でもやっぱオレ、先に玲さんに謝ってくる――」
 あの時は、男の玲さんにいきなり告白されたから想定外で、きちんと話も聴いてあげずに飛び出してきちゃったから。
「えらいじゃない」
「このままいくよ」
「ついていってもいーい?」
「もちろん」

ガタッ ダダダダ ゴツン
――まさか。
オレとすみれは落ちた。だって、さっき地上にいたのに、今目の前がバーZEROだ。
「……イッ、いたァい」
 ――すみれ!
「だいじょうぶか?」
「夏南は?」
「オレは大丈……痛ッ」
「みせて」
 ――すみれが無事でよかった。
「夏南……うで折れてる――」
 ――えっ
 ガチャッ チリリリン
「……かなんっ!どうしたんだっ?」
 ――あ……、玲さんだ。
「夏南、私かばって、腕骨折したんです!」
「ああッ」
 ――オレ、怪我したのかッ!
 しかも、玲さんの目の前で――。この優しい人は、自分を責めるだろうな……。

ついてないほしどころの話じゃない。
 これからどうしたらいいのか――。

  ガーリック・キス

「ヒロちゃん、大変!」
「どうした?」
「夏南が!……じゃなくて、私をかばった友達が、バーに降りる急勾配で骨折しちゃったの!ヒロちゃん外科でしょ?」
「整形外科じゃないけどな……。まあいい、すぐいく」

 ここは峰杏(ほうあん)大学病院。俺の病院だ。すみれはすぐにみつかった。
「すみれっ」
「ヒロちゃんッ」
 見知らぬ、綺麗な男がいた。
「はじめまして。倉橋です」
「どーも。院長の中島です」
 ガチャ
 どうやら患者が処置室から出てきたようだ。
 ――えっ?
 件の天使、もとい、我侭な悪魔である。
「これが、すみれのダチ?」
 腕を骨折したらしい。三角巾が痛々しい。
「オマエ、本当に医者だったんだな……」
 なんだか、今日は毒気がない。
「あまなっとう、ありがと……」
――精気まで、希薄だな……。
 俺はカナンにキスをした。
「んう……!何すんだよっ!」
 ――お、元気になった。……しかし
「にんにく……」
「るさいなっ!ギョーザ食ったんだから仕方ないだろ!」
 ――ふうん?
 ふと、辺りをみると、すみれは歓喜の様で(スーは、腐女子だ)もう一方は死にそうな顔をしていた。
「倉橋サン、大丈夫か?」
すみれがハッとする。
「玲さん!あっち行こう?」
 フォローなのか、なんなのか、すみれは倉橋を連れて外へ行った。一方――、
「お前、どうすんの?」
「じゃなくて、どうしてキス……」
「ああ、俺のキスは、患者さんへのお祈り」
「帰る――」
 ――ありゃ、拗ねちゃった。
「送ってくよ」
「いいよもう!」
「いーや、送らせて頂く……」
 渋々ながら、了承してくれた。

初めてのキス、フォルトゥナ

「あまなっとう、ありがと……」
 と、礼を言った男にキスされた――。
「んう……!何すんだよっ!」
「にんにく……」
 キスされた上に失礼なこと言われてるオレ。
「るさいなっ!ギョーザ食ったんだから仕方ないだろ!」
 オレは怒りのあまり、さっきまでの悲壮感を一瞬忘れた。
「倉橋サン、大丈夫か?」
――あ……。
この男は本当にひどいことをしてくれた。唯でさえ、オレを心配して心を砕いていた玲さんの、何も目の前で、心無いことをしなくたっていい――。
オレは死にそうな眼で、男を――ヒロを睨んだ。ヒロがこっちを振り向く。
「玲さん!あっち行こう?」
 すみれが気を利かせてくれた。
「お前、どうすんの?」
「じゃなくて、どうしてキス……」
「ああ、俺のキスは、患者さんへのお祈り」
 ――ふざけるなっ!
「帰る――」
「送ってくよ」
「いいよもう!」
「いーや、送らせて頂く……」
しつこい。骨折は不安だから、渋々了承した。

 トヨタのマジェスタ――やっぱり住む世界が違う。オレの心はもっと卑屈になっていく。
 ――おかねがない。
 その上、唯一の命綱であるオレ自身が、少なくとも一ヶ月は働くことができないなんて――。もちろん貯金だっていろいろ考えてきた。だけど、もとからカツカツだったし、最近校外実習で思ったより交通費のかかるところに指定されたせいで、生活費もままならない感じだったのだ。
 ――オレにこれ以上どうしろっていうんだ……。
「大丈夫じゃ、なさそうだな」
「……」
 赤信号。助手席に座るオレに、キスをした。
 ――この眼を見ればわかる。
 からかっているんじゃ、ないって。
 オレはキスというものを、つかの間感じとってみた。まだ、ファーストキスのうちだろう――。
 ――フォルトゥナ……。

 青信号。オレは、涙をひとしずくと、少しの話をした。

  ソレハ、小惑星ノ名前

「大丈夫じゃ、なさそうだな」
「……」
赤信号だ――。夏南は、何かを堪えている。
 ――この眼、もうキャパオーバーだ。
 医師の観察眼と、オレの勘、そしてこいつからのSOS――。
「――フォルトゥナ……」
 と、夏南が呟く。

 青信号。彼は少し、話をはじめた。
「オマエもオレも、フォルトゥナだ……」
「……どういうことだ?」
「オマエがローマ神話の方の……」
「ああ、それは知ってる。幸運の女神サマだろ?」
「きまぐれな、運命の神……」
「……そうか、そういう解釈もあるもんな」
「オレは……、小惑星」
「惑星?」
「昔、玲さんがおしえてくれた――」
「だれだそいつ」
 クスン……と小さな音をたて、一すじ涙をこぼす。
「さっきの人」
「あァ……」
「ベーシックカクテルにフォルトゥナがあって、辛口なんだけどガーニッシュ――デコレーションにオリーブを飾るんだ」
「確かによくついているよな」
「オレ、オリーブ好きだからそのレシピを一番に覚えたんだ」
「俺も好きだな……それで?」
「玲さんが、レシピの由来を教えてくれた……。オリーブは、太陽系をクルクルくるくる廻る、小惑星であるフォルトゥナをイメージしたんだって……」
 ヒクッとしゃくりあげる夏南。
「なんか、宙ぶらりんな雰囲気が、オレかな?ってさ」
 ――ここはフツー、なぐさめるだろ。
「夏南」
「なんだよ」
「お前、いい頭の回転してんのなッ!」
 オレは変人なので、笑い飛ばすことにした――。

  すみれと行く、乙女ロード

「オレ、前期で大学辞めることにしたんだ」
 開口一番にそう言われて、流石の私でもびっくりした。
「ほんとうに?」
「うん。続けたい……けど、金銭的にキツいのはもう限界なんだ」
 ――むしろ、ふっきれたような顔しちゃって……!
 こういう自己完結するタイプ、私知ってる。身内の二個上に、心理描写を得意とした
作家、久遠尊がいる。
 私ははっきりいって、あんまり尊ちゃんの事は好きじゃなかった。――だって、ヒロちゃんにしか懐かないし、なんかすっごい瞳で周りをみるから……。
 でもヒロちゃん情報によると、最近最愛の人ができたらしく、作風も微妙に優しくなった。そしたら、いきなり直木賞かなんかの最終選考まで残っちゃって、ちょっとびびったけど☆
「テスト受けないで辞めて、もう実家帰ろうと思う――」
「そう……」
 私、こういうタイプは、時間がかかるのがよくわかるから、無理に引き留めない!
「かーなんっ」
「なんだよいきなり」
「ここにパフーム★サマーライブの、VIP席のチケットがありまーす!」
「なにっ!」
 パフーム★は、今急成長中のガールズテクノポップユニットだ。私も夏南も、妙にハマっている――。
「これ、あげるから。一緒に行こ?」
   ※
東京、代々木第一体育館――でのパフーム★ライブを片手で楽しんだ私たち、もちろん片手でつきあったわよ?
 私はあくまで、あくまでマイペースに夏南を振り回しながら、ちゃんと監視してた。

 最近、おば様の調子があまり良くない。おじ様もヒロちゃんも心配していた――。だけど、おば様は逆に嫁探しに燃えていた。
 大安の今日辺り、ヒロちゃんは婚約確定な勢いだ。
「すみれっ」
「あやめちゃん!」
ここは、池袋乙女ロード手前のメゾンカイザー。私と夏南は、ある人達を待っていた。
ふたり、来た。ひとりは私の《趣味》トモダチで四つ上、美人リフレクソロジストのあやめちゃん。もうひとり、ちょっと儚げなスタイリッシュ男は私の身内――久遠尊よッ!
「ひさしぶりィー!……そっちも」
「ああ」
「はじめまして……山野です」
夏南はいきなりの有名人の登場に困惑顔だ。
「こちらの夏南は、只今絶賛ヒロちゃんの……多分想い人よッ!」
「ちょ、すみれッ!なんだその設定は!ていうか多分ってなんだよッ!」
「そうか……」
「久遠さんも、お願いだから納得しないで下さい」
 可哀想なので、かるーく説明してあげた。
「こちらのサラサラロング美人があやめちゃん。あやめちゃんとこのアイドル(♂)セラピストだった子が、尊ちゃんが大事に守る相手」
「ふーん……って、♂って男じゃないか!」
「そうよー。今時、いろんな人と打ち解けていかないと、生きるのが難しい時代なのよ?」
 と、あやめちゃん。いいこと言うわね。
 私はサラダをバリバリ食べながら、見守る。
ここのサラダは絶品よ~。パンもだけど! 早く長野にも、お店出してくれないかしら? あやめちゃんと逢う度に食べてるのに、飽きないのよねェ~。
「そ、そうですか……」
 たじたじな、夏南。おもしろいシチュエーションだ。
「で、だった――ってことは、今その彼氏さんは何しているんですか?」
「遥は、今パリでフレンチの修行中だぜ。来年の夏位まで……かなァ」
 ちょっと淋しそうな尊ちゃん。尊ちゃんのこんな表情、はじめてみた――。
「そうですか……。あ、そういえば尊さん、直木賞受賞おめでとうございます!」
「そうねっ久遠サン! 私からも、おめでとうございます」
 あやめちゃんまで、深々と……。一応、
「身内代表! 尊ちゃん、おめでとーう」
「ありがとな」
 ちょっと、嬉しそうな尊ちゃん。
「アレは遥と出逢ってから書いたから、かなりまともな出来だぜ」
 ――そうなんだあ……。なんか、いいな。
「いいですね……。そういうの、憧れる……」
 ――夏南も……。
「山野さんも、きっとそういう人できますよ」
「そうかな……」
 ちょっと、自嘲気味の夏南。静かな瞳の尊ちゃん。見守る、――私達フラワーズ。
「何かを選ぶことだけは、人任せじゃいけない。自分でやるんです」
 ――いきなり、敬語?
 みんなのクエスチョンだ。
「遥が、身を以てオレに教えてくれたんだ――」
「……ありがとうございます。ちょっと、オレ頭冷やしたいんで失礼します」
 夏南が、テラス席からそのまま外へ出て行った。

「ちょっと、可哀そうだったんじゃないかァ?――オレの事、言ってなかっただろ?」
 なんとなく夏南に肩入れ気味の尊ちゃん。
「ゴメンゴメンー。あやめちゃんも、尊ちゃん連れ出してくれて、ありがとうね」
「いいのよ~。おかげで超イケメンと、街を歩けたしッ」
 ノリノリである。
「《後でアヌメイトで買いたい物リスト》でも作って待ってようか?」
「お姉さま、賛成ッ!」
 ピッと手まで挙げている美人。ほんとにあやめちゃんてば、最高ッ!
「尊ちゃん、今回はちょっと感謝してる!ありがと」
「ハイハイ。オレ、このまま編集部よって帰るから」
「ええっ!久遠サン帰っちゃうの?」
「すみません、あやめさん。あなたのおかげで、良い目の保養になりました」
「まあ……」
 ――尊ちゃん……。
 サクッと、尊ちゃんが帰ったので、私達はいそいそと分厚いマル秘手帳やら、イケメンの写真集を広げ始めた。
 プルルルルルル
 ――夏南かな?

   カナン、君ノ名前

「中島さまは、ガンの名医と御聞きしましたわ。お付き合い後はわたくしと一緒に、神の教えを広めませんこと?」
「それもいいですねェ~」
 ちょっと変わった相手でも、もちろんにっこり笑顔で応える俺様。
 ――んー。イズミさんは面白そうな人だから、婚約はしなくても、良い友人になれないかなァ……。
 とはいえ、もう逃げるのは許されないレベルまで来ていた。おふくろが本気モードをだして、染織物の人間国宝団体の令嬢を連れてきやがった。さっき《鏡紬――かがみつむぎ》なるイズミさん作の布きれを見せていただいたが、なかなか渋くていい色だった。
「わたくし、あまり結婚というものに興味はありませんでしたが、家庭を持たねばならない以上は、カナンのような理想のお家を作るのに尽力いたしますわ」
 ――古風なうえに、いい笑顔もお持ちである。
「……かなん」
「ええ、ご存じ? 昔々に、神がアブラハムたちに与えると約束した、乳と蜜が流れる楽土のことですわ」
「……カナン」
 ――そんな所だったら、あいつも飢えないでのんびり暮らせるだろうなァ……。
 ちょっと、カナシイ気持ちを感じる。この感覚は、母を亡くした時以来だ。そう、今のおふくろは後妻だ――俺が十四で、おふくろが二十二の時のことだ。
 母は食にうるさく、和食の得意な人だったが、俺が小学生の時に大腸ガンが発見され手術をした。三年、五年、十年――術後再発等のリスクの高いといわれている時期に、奇しくも再発、十三の時に父子家庭になった。
 おふくろは近所にあるナカジマハイツに住む女子大生で、父子家庭の我が家の世話をしているうちに嫁に来ていたクチだ。いまだに、笑える。
「……イズミさん、よさそうじゃない?……」
ずっと横に控えて、沈黙を守っていたおふくろがひそひそと話しかけてきた。
「……まあな」
 おふくろも、もう三九。相変らず華やかな印象は拭えないが、最近は疲れやすいみたいだ。――と、
「……うう、ちょっとひつれい……」
 また急に、気分が悪くなったらしい。

 ――にんしん?
 にんじんの間違いじゃないかと思った。
 ここは、峰杏の個室。高齢出産だし、ちょっと細身のおふくろなので数日入院してもらうことにした。
「四か月だってッ! 気づかないなんて、のんきよね~」
「ははは……」
 乾いた苦笑がもれる――。
 ――でも、一人もいなかったし、よかったな……。
 若くして結婚し、俺が研修医で忙しかったころも、よく世話をしてくれた。感謝している。
「……でも、よかったァ。久遠のおじ様からよーっく頼まれてたし、我が家から次期院長候補ださなきゃだったから、焦ったけど、子供ができれば選択肢が広がるわっ!」
 ――たしかに。
 俺が子供をもうけるのがてっとり早いのは確かだが、俺に兄弟ができれば……、たとえ女の子でも婿とか……可能性はいろいろある。
「ヒロ、最近ずっとうるさくして、ごめんね」

 俺はその言葉に、ゆっくりと首を横にふって、病室からでた――。

  黒クルミ、ニガヨモギ、クローブ
 
 ミーンミンミンミンミン……――
 ちょっと暑い、夏の午後。オレはひとり、佃煮屋の番をしていた。一応まだ、婆ちゃんが『佃煮造りはやり甲斐あるねぇ! ボケ防止にもいいしね』と、続けているのである。今日は一日、ちょっと早い夏休みをプレゼントした。
 さっきまで、すみれも一緒に店番していたのだが――すみれはあんまり成績の伸びがよくないから、必死にビタミンを再暗記していた――チラッとメールを確認した後、ちょっと散歩に行ってしまった。巣鴨のお地蔵様をみてくるとか言っていたが、昨日池袋の帰りにもみたし、ファミマで《すがもん》――赤いはっぴ姿の鴨の男の子のストラップにキャーキャー騒いでたのに……。
 ――地蔵にも、ハマったのかな?

「すみません」
「ハイ、いらっしゃ……」
 ――びびび、びっくりしたーあッ!
 ヒロである。何故、こいつが東京も巣鴨なんざにいるのか。親族揃って、地蔵ブームなのか?
「なんで!」
「お前をナンパしに、きた」
 ――は?
「オマエ、遂にいかれちまったのか……」
「ちがーう! ホントにわざわざ、お前に援助の申込みをしに来てやったんだぜ、俺様が」

 来てしまったものは仕方がないので、とりあえず奥にあげてやった。冷たい緑茶と、胡桃の佃煮を出してやる優しいオレ。
「夏南、前半は学校の話だ」
「なんだよ」
「優秀なお前には、是非とも峰杏に残っていただきたい」
「優秀?一応半額免除の奨学生だけど、薬学生なんて、たかが知れてるだろ」
「オマエの懸賞論文、読んだぞ」
「え……」
 確かに、オレは今年の初めに全国薬学生対象の懸賞論文に応募した。だって、賞金がほしかったのだ――。
「《癌とハーブ、スパイス~現代人の食生活~》」
「……」
「なるほど、佃煮屋なら現代人にあわせた保存食とか……、調味に香辛料やハーブ、酢を使って減塩とか、閃きやすい環境だったんだな。すごく、内容がしっかりしていた」
 ――な、いきなり褒めんなよッ!
 顔が赤いのを感じる。まさか、知人に論文を知られるとは……。
「俺の産みの母も、ガンで亡くなっているんだ」
「……そうなのか?」
「今のおふくろは、後妻。しかも、元気にご懐妊だぜ。俺、今からお兄ちゃんになるらしい」
 ヒロは、さも可笑しそうに、ククッとわらった。
 ――こいつも、母を亡くしているのか。
「なあ。お前、まだ勉強したいんだろ。生活費は、大学側で援助するから……」
「……やめてくれよ」
「……」
「オレ、今まで辛くても自力で乗り越えてきたんだ。公正じゃない憐みなんて、いらない――」
「お前……」
 アイツがちょっとだけ、項垂れる。
「――ちょっと言い方が悪かった。ゴメン」
「いや、当然だよな……」

「なァ……」
「なんだよ」
「俺、家出るから、一緒に住まないか?」
「なに言っちゃっているんだよ、急にっ!」
 どうしたら、そんな話がでてくるのか。
「本気だ」
「嘘だっ」
 でも、真剣な深い瞳の色――。
「お前が心配なんだっ」
「――本当かよ」
 ――だって……!
「すみれが言ってた。アンタの髪は、小さな頃の久遠尊が褒めたから、ずっと長いままなんだろッ」
 好きだったんじゃ、ないだろうか? 俺にしょちゅう、キスしてくる位だし。
 ――あんな人間離れした綺麗な、才能まである人と……。
「あ? コレか? まあ確かに、最初はそうだったけど、高校以降は俺の趣味だぜ。てか、魂?」
「――はあ?」
「第一、あいつ自分で言ったこと覚えてなかったんだぜ! 言ったことに責任持てよって感じ?」
――そうなのか……。
「俺、お前のこと、ちゃんと好きだぜ」
「――え……?」
「てか、お前だって俺の事好き……」
 ――……!
 オレは、どうやら自分からヒロの頬にキスしていたらしい。
 ――ありがとう。
 だって、ずっとずっとずっと――気を張って生きていたから、ちょっと疲れてたんだオレ。もう、嬉しいっていうより、愉しくて仕方がなかった――。

 ヒロに軽く抱きしめられながら、窓の外を見れば、潤んだマリーゴールドの綺麗な空には飛行機雲がひとすじ流れていた――。


花言葉は、歓喜

「俺の従兄弟んちには星屑の間があるんだぜ?」
「んう……」
 夏南の色っぽい首筋に噛みつく。
「あう……、いたいっ」
「まだまだだぜ」
 手探りでどんどん服を脱がせていく。夏南のソレは既にトロトロと水分を分泌していた。
「可愛いな……」
 それは本心からのコトバだったのだが、夏南のプライドをちょっと傷つけたらしい。
 せっかくの天使の蕩ける顔を、小悪魔の妖艶に変えてしまった。
「はやくしろよッ」
「ハイハイ、オレの天使」
乳首を摘まみながら、アマ噛みする。噛むのは好きだ。
「ふうんっ」
「感じやすいな」
 若い夏南は、既に腰が動いている。俺にすりつけていますよーっと。リクエストに応えて、体をひっくり返してやり、胸とアソコを両手で触ってやる。背中はもちろん噛んでマーキングする。顔を覗くと蕩ける天使にもどっている。
「夏南……綺麗だな」
「はあん……」
今度はお気に召したようだ。俺は手に医療用ワセリンをたっぷりとって、あえて冷えたまま夏南の後ろに洪水をつくった。形のいい尻が艶やかで、エロい。俺はなんとなく、そこを女の蜜壷のようにしたかったのだ。
「今、気持ち良くしてやるからな」
「……?んう……」
    ※
 ハスキーボイスで囁くのはやめてくれッ。カラダの力が抜ける……、溶ける。
 後ろがじゅぽじゅぽ言っている。もう、意思があるらしく、オレがどんなに恥ずかしくって嫌がっても、勝手にひくつくのだ。
 ジュポジュポッ グチュッ
クチクチとヒロが指を突っ込んでくる。
 ――ああ、オレはもう、お前のものなんだな。
 そんな、諦めにも似たような想いが、溢れてあふれて……
「もういいっ、はやくほしいっ」
涙を零して、懇願中だ――。
「まだまだ、指に絡みつくまでナ、攣っちゃうと恥ずかしいだろ?」
 どんだけセックスし続ける気なんだ……。ちょっとゾッとして、直に快感に変わった。
 ――はやく、挿れて?
「……ああうっ」
    ※
――そういや、フェラしてなかったな。
ひっくり返して、そこに顔を埋める。
はむっ ちゅ ちゅう ちゅぽ
――ん、おいしい。
「アァッ、んあ……」
天使が啼き始めた。俺は、自分のそれで夏南をかきまわし、犯し始めた。

――愛しているよ、夏南。
うん、締まってる。若いな。
    ※
オレは、ヒロのもの。
――もっと、あいして?
もっと、よくして――。
「はあんっ!……ああああっ」
    ※
座位が一番綺麗に見えた。
夏南の羽が見える――。

 

ふたりの朝、一味同心

チュンチュン ピピ
朝である。
――ここどこだ?
見慣れない天井、ベッド。てか、広い。
「朝メシ、できたぞ」
 コクンと頷き、カラダをみると空色のパジャマを着せられていた。
 ――着せてくれたのかな?
 ちょっと、ハズい。でもまあ、気にしない方向でリビングに向かう。
 昨日ふたりで足を踏み入れたマンションは、ヒロ――アイツの親父さんの持ち物件の中で一番いい奴を買ったと本人が言っていたから、そういうクラスの部屋なのだろう。すばらしく快適である。
「カラダ、へーきか?」
「……そういうこと、訊くな」
 オレは今、相当赤い顔のハズだ……。
「なにおうっ!俺様は医者だから、セクハラじゃねーぞ」
「外科じゃねーか……」
「昨日は可愛かったのになァ?夏南――まあいっか、ほどほどみたいだし。食おうぜ」
「うん」
 最上階でガラス張りのリビング――モダンなホテルの上の方みたいだ。朝日が気持ちいい。でも、アイツセレクトの家具は、堅苦しくなく医者らしくもない。乳白色の部屋には、アクセントにやさしく元気なダリアパープル。円いカフェテーブルはシルバーホワイト。ゴハンが美味しく食べられるように、ここには色を使わないヒロ。こだわりなのだそうだ――。
「いただきます」 
 目の前には、ほかほか御飯。
 ――しあわせ。
 ちょっと、いや、だいぶジーンとしてしまう。茄子の味噌汁、南瓜のパリパリ漬、みるからにふわふわとしている出汁巻き卵に、納豆――。
「おいしい。上手だな」
「俺は器用なんだっ。もっといっぱい食えよ」
 ヒロも笑顔だ。うれしい。
「最初の今日は、夏野菜セレクトだぜ」
「うん。南瓜の漬物なんて、初めてだオレ」
「今度、婆ちゃん直伝の佃煮つくれよ」
「ああ。なんの佃煮でもつくれる」
 ゴハンがおいしいのが、生きるので一番サイコーだ。なんでも、努力できそうだ。
「納豆は、たまには極小だぜ」
「ふうん?」
 ――あんなに大粒ラヴっていってたのにな。
 食べてみた。ひきわりとも、また違う。
「おいし……」
 口の中で、納豆なのにほろほろしている。粒々感もたまらない。
 ――あんなに、食べ応えを重視してたのに。
 環境……っていうか、心境――心の豊かさレベルが変わると、なんでも幸せになるのかな?
 ――だったら、頑張れる。
 たとえばたいへんでも。
 ――ひとりじゃない。
   ※
「おいし……」
 ――かわいいじゃねェか。
 俺の秘蔵の納豆に、感動しているらしい。
「それナ、ちょっと個数限定だから、たまにしか食べられないけど、実は一番好きなんだ」
「そうなんだ。オレもこれがイチバンかも」
 ちょっと、興奮気味でいつもより幼く見える。
「――こういうのな、茶道で一味同心っていうんだぜー」
「どういう意味なんだ?」
「一つのモノ――例えばお茶とかを通して、キモチが一緒になる……まあ、乙女な言葉だよなー」
「……いいんじゃない?」
   ※
 ――今日も、良い日になるといいな。

























  もくじ

ビタミンチャージ~angel~
ビタミンチャージ~devil~
星ノ名前
納豆ラヴァーズ
甘納豆・チャージ~華の女子大生~
フォルトゥナ、幸運の女神
ジーザス、残高ゼロ
ガーリック・キス
初めてのキス、フォルトゥナ
ソレハ、小惑星ノ名前
すみれと行く、乙女ロード
カナン、君ノ名前
黒クルミ、ニガヨモギ、クローブ

番外 ありがとう――、アプリコット・ラブ

花言葉は、歓喜
ふたりの朝、一味同心













ありがとう――、アプリコット・ラブ

 バーZEROは、僕がはじめて、自分でゼロからつくりあげた店だ。
 僕の父は、横浜に本社のあるARCILLA Co. Ltd.(アルシージャ株式会社)の取締役だ。僕と違って強くて優しい父を筆頭に、花が好きで明るい母や、……僕が一番かわいがっていた妹のさくら。そんな愛する家族と離れた、長野の地にバーをつくった僕。
 大学卒業後、内向的な性格の僕も、一度位積極的に行動してみたくなった――。大学時代に親交のあった先輩が、連れて行ってくれた重厚感のある落ち着いたバー。何度も通っているうちに、次第にバーテンダーとも揚がらずに会話できるようになったし、マスターとも仲良くなった。
 いつの日か、小さくてもいい、ゆったりとした癒しの――暮らしのストレスがゼロになるような……、そんなバーをつくりたいと強く思うようになった。
 父に相談して費用を工面してもらい、ひとり、長野にきた。僕は、小さい頃からたまに来る軽井沢をはじめとした、なんともいえない清々しさのあるこの土地が好きだった。
 初期費用を抑える必要がなかったから、立地も穏やかなところを選べたし、内装も――少しだけアートにはこだわった。
 チリン……
 少しだけ、力がもどる――。
「きてくれて、ありがとう」
「いえ――それより……」
「だいじょうぶだよ、夏南」
 ――もう大分、顔色がいいな……。
 よかった。本当に、よかった。この土地には、良い思い出しかない――。
「でもオレ……」
「あの時は、キミへの想いがどうしてか――勝手に溢れちゃったんだ」
「玲さん――」
「すごくびっくりさせちゃったとは、思うよ。でも嘘じゃない。謝りはしないよ」
「そんな……」
「夏南も謝る必要はないよ……。ただ、お願いがあるんだ。座って」
「……?」
「僕の長野でのラストカクテル、どうぞ」
「……ラスト」
「うん、ラスト。僕、――そろそろステップアップしようと思うんだ」
「この土地を……離れるんですね?」
「やりたいこともあるし、気分一新、ね?」
「そうですか……」
 夏南の目が伏せられる。
「アプリコット・ラブ」
   ※
「アプリコット・ラブ」
 そう、玲さんが言った。
「このカクテルの――?」
「そう。それは、夏南だよ」
「オレ……?」
丸みのある少し深いタイプのカクテルグラスの中身は、金茶から段々と下にむかって緋色に変わるグラデーションが綺麗なカクテル。ジンベースのロングドリンク。爽やかに甘い、杏の香りがする――。
「夏南のおかげで、ここでの生活は淋しくなかったし、すごく楽しかったよ」
「玲さん……」
 ――こんなに素敵な人。
「このカクテルの色、忘れないでほしいな」
 ――忘れるわけがない……。
   ※
 最後にゆっくり逢いたかったから、ゆっくり飲んでほしかったから、カクテルグラスにはしなかった――。


 生姜の愛。


 トントントン
 土日の昼メシはオレがメインだけど、大体一緒に作る。ヒロが仕事中でも時間があると戻ってくるからだ。病院に近いのを結構有効活用しているオレ達。しかし、今日は本当に手が離せないらしいから、病院に弁当作って持っていってやることにした――。
 メインのあっさり豆腐グラタン、かぼちゃのいとこ煮、ホウレン草の胡麻和え、ご飯には生姜の佃煮を添えた。
 水筒にミニトマトとネギ入り卵スープもスタンバイしている。
 最近、忙しくって医者の不養生っぽいヒロ向けの弁当にしてみた。オレの分と、スープ用のカフェオレ・ボウルを用意して、病院に向かうオレ。

「ヒロー、来たぞー」
 言いながらバタンと院長室のドアを開けるオレ。
「夏南。サンキュー」
 少し疲れてみえる。ここんとこ急に気温の変化があったせいか、患者さんもパタパタと体調が変わりやすかったみたいだ。
 ケホッ
 ヒロが変な咳をしていた。
「飯、あっさり系にしてみたけど……?」
「おぅ! 食う食う。もぉ超腹減った~」
 ――よかった。

「俺もまあまあイイ線いってる方だと思うけど、夏南の飯は本当にうまいな」
「ありがと。でも切り方とかテクニックは、やっぱりゴッドハンドには及ばないかな?」
 ヒロはよくオレを褒めてくれる。婆ちゃんや母さんもよく褒めてくれたから、褒められるとすごく嬉しい。
「――この生姜の佃煮、シャキシャキして美味い……」
「ホントか? それは、婆ちゃんのおきにいりなんだぜ。喉にいいんだ」
「体も暖まるしな」 ニカッと笑うヒロ。なんでも幸せになる、最近エコなオレ。
 ――ヒロが笑ってくれればいい。
「婆ちゃんの上客で、もう百歳超えの声楽家がたんまり買ってくんだぜ」
「それはすげぇな」 アハハと声をたてて笑うヒロ。
「じゃあお前も俺が百超えるまで、俺に作れよ」
 ――!
 すっげえ恥ずかしい。でも必要とされるのは嬉しいんだ、オレ。
「ああ、長生きしろよ」
 ――さて、どんな未来かな?


 華ノ名前


――まだかなまだかな?
私はひとりっこだから、産まれたてほやほやの赤ちゃんをみる機会なんて初めてだ。
ガチャ
「ただいまー」
 ――ヒロ兄だ!
ここはもちろんヒロちゃんち。
「ただいま、待っていてくれたのね。すみれちゃん」
「もちろんです、おば様」
 幸せそうで、綺麗なおば様。そして嬉しさから、輝かんばかりの笑顔のおじ様。そっと、赤ちゃんの顔をのぞき込む――。
「わあ、やっぱりかわいい!」
「ありがと」
 おば様が微笑む。
「もう、名前は決まったんですか?この子」
「それがねえ、この人が優柔不断でまだ決まってないのよ~。今回は譲ってあげたのに……」
「すみれちゃん。この子になんか可愛い、お姫様みたいな名前、ないかなァ?」
「――そうですねえ……」
 まさか、私が名づけ親にされるとは思わなかったから、なんにもリストアップしてなかった。
 ――!
「ひらがなで、《ぼたん》ちゃんなんて、いかがですか?」
 おば様が、
「立てば芍薬」
「座ればぼたんちゃんか!可愛いじゃないか」
 おじ様が満面の笑みで言った。
 どうやら、決定らしい。
「……ぼたんちゃん」
 私はそっと呼びかけた。この子に幸多からんことを――。
 ――フラワーズ、歓迎するわよ?









テーマ : 自作BL小説 - ジャンル : 小説・文学

BL#カラーチャージ

カラーチャージ   ~complementary color~







































千駄ヶ谷、はじまりの場所


「寒いなァ……」
殊のほか、いや、ありえなく寒い。
――東京の夜ってこんなに寒かったっけ?
とか、長野生まれのくせに考えてしまう。最近御老体気味の自分がちょっと嫌だ。
でも、おしるこを手に入れるためには仕方がない。
ポケットに突っ込んでもなお寒い手が、可哀そうだ。しかし、冷たい風に吹きっさらしの顔は、もっと可哀そうだ。
「そしてなによりも、オレ自身が寒すぎて可哀そうだ……」

前に住んでいた渋谷の繁華街近くの高級マンションと違って、閑静なこの辺りには、あまりスーパーが無い。
作家という仕事柄、常に家にいるから、やろうとおもえばできるが、料理なんてしないオレは、スーパーのひとつやふたつ無くても問題はない。
とりあえず、駅前のコンビニへむかってみる。
なんで、ちゃんとおしるこ缶をストックしておかなかったのかって?
それは無理だ。今日引っ越してきたばかりだし。

心機一転、四月になる前には引っ越したかったので、頑張って原稿をあげた。
オレは本名をそのままペンネームにした久遠尊(くおんみこと)で仕事をしている、『心理系作家』とかいうニュージャンルを確立した、一応売れている作家なのだ。
大学で心理学を勉強しながら、多岐に渡るジャンルに投稿を重ねていたオレは、運よく学生デビューできた。早く自立したかったから、本当にラッキーだった。デビュー作『満身創痍』は、本来なら心理エッセイになるものを無理やり小説にしたものが一般に受けたらしく、なぜかベストセラーになった。
以後卒業まで三年兼業作家、今は専業二年目。
貯金もまあまあになってきたから、良い環境に引っ越すことにした。
ホントのとこ言うと、いままでなんとなく付き合っていた女の子達と、綺麗にお別れもしてきた。刺激が無かったし、自分でもよくわからないけど、今まで熱心に書いてきたモノ達すら、なんだか内容の薄い、つまらないものに思える。
……簡単に言うと、オレはスランプの真っ最中でもあるのだ。

東京体育館にさしかかる。
キラキラと光が反射するオブジェがみえる。
――綺麗だなァ……。
ふと、音楽が聞こえることに気づいた。結構好みのタイプの、テンション低めなデジタルサウンドが聞こえる。
――こんな寒い夜に?
メインアリーナの前で誰か踊っている。
綺麗な子だ。なによりびっくりなのは、まだ春先なのにタンクトップ姿で熱心にダンスしていることだ。ジャンルは……、よくわからないがブレイクダンスとかタップダンスとかそういうのではないようだ。きれいに音楽にのっている。かなり、うまい。
ちょっと、見惚れた。
線が細くて、髪がふんわりしていて……、前に付き合った娘にも似たような子がいたな。
でも、オレの視線にも気がつかないダンサーは、美少年だ。

ぐー。腹減った。
オレは先を急ぐことにした。


     ジャスミン、月夜に咲く


 ――今日も彼は踊っていた。
今日もオレはおしるこを求めていた。ついでにジャスミン茶も、あとは何買おうかな?
一週間以上毎日通っていると、もう店員とも顔見知りだ。オレがおしるこを筆頭に甘いもの好きなのも、バレバレだ。オレは今までの女の子達に結構クールに見られていたから、付き合い始めて甘いもの好きが発覚すると、見た目とのギャップによく驚かれた。
――でもオレはスイーツが主食だからな。
これだけおしるこに闘魂しているのに、買い溜めし忘れてしまったオレは、引っ越し翌日もコンビニのお世話になった。その時も件の美少年が踊っていたので、ちょっとおもしろくなって、毎日通うことにした。
帰り道も引き続き彼は熱心に踊っていた。いつもの曲もあいまって、彼は少し哀しげなダンサーだ。オレ達は、雨が降らない夜は毎日逢っていることになる。一方的に、だが。
ぐー。腹減った。
オレは家路を急ぐことにした。

翌日。
編集の京ちゃんとの打ち合わせで、オレは新宿に来ていた。京ちゃんはきっぷのいい美人女史だ。ただ、酷くスパルタだ。オレは今ものすごく眠い、そのうえ、だるい。
だるすぎていつの間にか、都会の喧騒から離れた、ちょっと寂しい地下のショッピング街にきていた。地上よりは人が少なくていいかんじだ。
目の前に淡いレモンカラーのRelaxerという看板があった。
ちょっとでも休めることができればなんでもよかったから、オレにしてはめずらしいところに入ってみた。
「いらっしゃいませ」
きれいな笑みを浮かべたスタッフは、件の彼だった。一瞬目を疑ったが、これだけのべっぴんさんはそんなにほいほいいるものでもないだろう。
「お客様。こちらのシートにチェックをお願いできますか?」
「ああ!はいはい」
「コースはお決まりでしょうか?」
チラッと、ネームタグを盗み見る。
「君は……、秋月君は施術もしているのかな?」
「えっと、私はリフレクソロジーをさせていただく事なら可能ですが?」
「じゃあ、リフレクソロジーの一時間コースで」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
受付はほかの子に任せるようだ。
店内はフローラルないい香りがする。すわり心地のよさそうなソファに案内された。彼は何か取りに行った。桶のようなものを持って戻ってきた。
「久遠様、靴下はそちらのラックにどうぞ。こちらの桶に足を浸けてください」
「これは……、お茶ですか?」
足湯からもなんだか香りがする。
「ええ。タイムなどいろいろブレンドされた、ハーブティーです」
ふんわりと彼が微笑む。いい笑顔だなァ。お茶もあったかくて気持ちいいし。店内にはクラシックも流れているみたいだ。
「お湯加減はいかがですか?」
「ちょうどいいです」
「少しお待ちくださいね」
うーん。本当にいい笑顔だ。サービス業の中でも、癒し系の職業にはもってこいの逸材だな!などと、心の中で称賛する。もしアンケートとかあるなら、オレ的には一位だな。
「お待たせいたしました」
待っていました~。彼が足を拭いてくれる。足がポカポカする。
「では、このハーブクリームを使ってマッサージさせていただきますね」
 今度ははちみつっぽい香りもする。彼がマッサージを開始した。
 それにしても、若い。きちんと礼儀正しいのだが、瑞々しいオーラがあたりを包んでいる。明るいところで見ると、彼が意外に色白で、目鼻立ちも……、男にしとくのはちょっと惜しい感じだということが鮮明だ。
「ちょっと失礼します」
ぐっ。
「うっ」
 さっきまでとマッサージの流れがかわり、いきなりツボにヒットした。
「すみません! 先生」
ん?
彼自身も、思いがけない自分の言葉に驚いているようだった。
「オレのこと知っているの?」
「あ、はい。すみません」
彼はさっきから謝ってばかりだ。
「読者?」
 ライトなタッチでベストセラーとはいえ、ちょっと新鮮な読者層だ。
「あ、僕は久遠先生の《庭のspiritと出逢う旅》をバイブルだと思っています」
 ばいぶる……。いかんマズイ。ツボだ。オレは思わず声をたてて笑ってしまった。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか……」
 彼がちょっと拗ねている。表情がくるくる変わる。興味深い。
「君の名前は?」
「遥。秋月遥です」
 すごく見た目とマッチしている。
「庭、好きなの?」
「はい。ハーブも好きで……」
 ものすごく、そんな感じだ。
「にしても、よくそんなマイナーな本知っていたね」
《庭のspiritと出逢う旅》は、オレの唯一のガーデン紀行だ。ちょっと乙女なネーミングは京ちゃんの案をそのまま採用したからだ。
「あの本で、ホーティカルチュラルセラピーというものを知ったので」
ホーティカルチュラルセラピー、つまり心理の分野からの園芸療法を念頭に置いた本だ。ただのガーデン紀行じゃないから、そんなに売れたほうじゃない。
遥がゆっくりとマッサージを再開した。今度はやんわりとだ。
「職業。セラピストだもんな」
「そんなかっこいいものじゃないですよ。僕は学生の時からここでバイトしていたんです」
「へえ」
 さっきは思わずうめいてしまったが、それは多分おれの疲労がピークなせいだ。けっして、遥のせいじゃなく、さらにいうと、遥は相当腕が立つと思われた。
「何年目になるの?」
「専門学校の一年の時からだから……、今年で三年目突入です」
 なるほど、納得だ。すごく、気持ちいい。そろそろ仕上げだ。
「なんの専門に通っていたの?」
「すぐ近くの、調理の専門です」
 料理までできるのか。女の子にしたら、お婿さんにしたいパーフェクトな男だな。
「そちら方面には進まなかったんだね」
「……迷ったんですけど、オレ、精神面でのセラピー効果に興味を持って」
 顔をあげた遥と眼があう。
「うん」
「……自分も癒しの世界に身を置いてみたいなあと思ったんです」
 真剣な瞳だ。オレまで伝染してくる。
「少しの時間、お休み下さい」
 そう言い置いて、遥の姿が壁の向こうに消えた。
 しばらくすると、ハーブティーを手に戻ってきた。
「どうぞ」
「ありがとう」
 もう、きれいな笑顔の遥に戻っていた。お茶を飲む、オレ。
「落ち着くな……」
 チラと、そばにいる遥を見やる。
「これはなんのハーブティーなんだ?」
「カモマイルのブレンドです。このブレンドの名前は《逆境のエネルギー》。去年、僕が考案したものです」
 ――逆境。なんか、かなりふんばって生きている感じだなァ……。
 喜怒哀楽。短い間にいろいろな表情を知ってしまったせいで、俄然興味がでてしまった。
 作家としてこのluck、モノにしたい。
「あのさ」
「なんですか?」
「オレの箱庭、見に来ない?」


     箱庭、花のある場所


――いつみても綺麗だな……。
東京体育館のキラキラと太陽が反射するオブジェがみえた。
――姉さん。オレは今、なんだかすごいことになっています。
今朝出逢ったばかりの、超有名イケメンベストセラー作家久遠尊のお宅に、これからお邪魔するそうです。
毎日来ているアリーナ横が、今日はプリズム地帯に思える。

オレはいつもここでジャズダンスをしている。
黄昏時の終り頃に、ふらりと来ては踊って帰る。そんな生活を始めたのは、一人暮らしをしはじめた頃から。だから、もう一ヶ月くらいになるのかな。季節もいつのまにか、冬から春になってしまった。
実家は都内に程近い埼玉。銀行員の両親と優しい姉――珠樹姉、そしてオレの四人家族だ。オレと珠樹は二歳違いだけど、すごく仲がいい。小さい頃なんて、学校通うのも、習い事も、なんでも一緒だった。
オレは三歳から五年間、珠樹と一緒にバレエを習っていた。最初は珠樹と一緒にいたくてはじめたバレエだったけど、どんどんのめりこんだ。そのバレエスタジオは、クラシックのほかに、ジャズやモダンも教えてくれたから、すごく楽しめた。オレはあそこで、表現するエンターテイナーとしての歓びを学んだ。珠樹はそのままそこに残って、今はそのスタジオの助手の仕事をしている。
一方オレは、ジャズを専門的にやりたかったから、他に移ることにした。もちろん吟味に吟味を重ねて、一流のジャズスクールを選んだ。
しかし、そのスクールではスタジオ時代のような《スマイルが一番》みたいな、楽しさや歓びを重視してはいなかった。いや、それは今思うとオレがそう思い込んでいただけかもしれない。でも、その時のオレにはそのスクールのやり方がだんだん肌に合わなくなっていた。四年後、ちょうど中学に上がるときにそのスクールを辞めた。フリースタイルでいくことにした。
 オレの夢は、プロのジャズダンサーになることだった――。

「おやつの時間なのに、ヒト少なくて長閑だねェ……」
 なにを急に、このヒトは。内心、見た目とのギャップでおもわず苦笑してしまう。
「フフッ。三時だからおやつの時間ですか?」
「そうそう。おやつって大事だからね」
……天下の久遠尊が、ものすごく可愛らしいことを言っている。
「おやつ、好きなんですか?」
「うん、あいしてる」
「あい……」
天才の言うことは、ちょっとわかりにくい。久遠尊の小説の文体は、わかりやすさに定評があるから、かなり意外な感じだ。
「ここだよ」
 そういって彼が立ち止まった場所は、東京体育館の敷地横を走る道路を挟んで向い側の、かなりの一等地に建つマンション前だった。
「すごくかっこいいマンションですねえ……」
「なかなかだろ」
 ちょっと得意そうな表情の久遠尊を見られる人なんて、そんなに沢山はいないだろう。
 賞賛の言葉は本音だった。ただ高級そうなマンションというよりは、ひたすらスタイリッシュでモダンなマンションという印象なのだ。なんだかこの人に似ている。
 Iceにまで昇華したcoolさといえばわかるだろうか?
 ちゃんと生きた人間なのだが、この人を間近で眺めればわかるだろう。
 色白ではないが、マットな質感のなめらかな肌が印象的だ。黒髪にダイヤのピアス。
 日本人離れした、長身。ステージ映えしそうな長い四肢。
 そして、たくさんの真実を覗き、暴いてきたであろう、瞳――。


     ディアマン達のカフェタイム


「ようこそ我が家へ」
 ちょっと不敵に笑う久遠尊。オレは思わずへらっと笑い返してしまう。
「お邪魔します」
「どーぞ、スリッパ」
「ありがとうございます」
ふかふか。パンダのスリッパだ……。
「こっちですよ~」

 ――すごいところに来た……。
 701号室。都心のぶちぬき1LDK。しかもメゾネットタイプだ。オレはずっと一軒家だったから、マンションに憧れていた。
 今はバイト先の系列の、西池袋にあるワンルームマンションに間借りしている。いつかは自分の稼いだお金で、こんなマンションに住んでみたい。
「コーヒー紅茶、どっちがいい?」
「あ、おかまいなく」
「じゃあオレの気分でコーヒーね。ソコすわってな」
「ハイ」
 さんさんと光が差し込む、白い気持ちのいいリビングは、……なんというか、60年代のレトロな香りのする家具で構成された、アバンギャルドでクールな部屋だった。異空間だ。挿し色のオレンジとディープスカイブルーがちょっとかわいい。
「ちょっとアリスになった気分です」
「じゃあ、もっとアリスになってもらおうかな?」
「……?」
「こっちおいで」
 お茶の準備はできたみたいだ。トレーを持っている。
 ――ここでお茶するんじゃないのかな?
 とりあえず、ついていく。メゾネットの上の階に行くようだ。
 ――ベッドだ。
 ベッドルームである。セミダブルくらいありそうだ。ミッドナイトブルーのみの、ここは結構普通の部屋だ。……きらきらと星屑が散りばめられている以外は。
「フフッ。綺麗ですね」
「だろ。でもこっちのほうが、キミ好みかな?」
「……?」
 彼は、右側の窓に吊るされた藍のベルベットカーテンをバッとひいた。
 ――眩しい。
 小さな庭の筈だった。都会のルーフトップバルコニーなのだから。
 でもそこには、彼が大事に創りあげた世界があった。
早咲きの藤の色が目を奪う。ため息が出る。
光を浴びた花は、シャンデリアみたいだった。
「すばらしいですね」
「ありがとう。遥はこれをみた、はじめての友達だ」
「え?」
「オレはこれが創りたくて、ここに引っ越してきたばかりなんだ」
 ――そうなのか……。ちょっとドキッとしちゃったじゃないか。
「さ、お茶だぜ」
 かいがいしく、ガーデンテーブルにセッティングしている。
 紅茶の似合いそうなところなのに、コーヒーというのがなんともフリーダムだ。
 いや、スタイルにとらわれない彼の庭なら、どんなお茶でも合うのかもしれない。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 お互い眼があう。――同じビジョンを見ていた。
          ※
 ――どっちもおいしい。
 お菓子は二種用意されていた。クッキーとプレーンスコーンだ。なんと、林檎ジャムは手作りなのだそうだ。マメだ。
「お料理はよくされるんですか?」
「いや」
「そうなんですか?」
「ああ。ジャムだけだ」
「へー……。そうなんだ」
ナゾすぎる。相当な甘党なのだろうか。
「このクッキーも作ったんですか?」
「いや。ジャムだけだ」
顔が笑っている。
「……もー。あんまりからかわないで下さいよ」
「ごめんごめん」

「こういう食感のクッキーは初めて食べたな」
「ディアマンは、ちっちゃい頃からのお気に入りなんだ」
「でぃあまん……」
「まわりについている砂糖を、ダイアモンドに見立てているらしい」
「あー、なるほど。かわいいですね」
「遥にお似合いな感じだよな」
「もー。またそういう」
「あはは」
「遥、もしヘブンで10分間だけ何をしても自由だったら、何をしたい?」
 この人はまたいきなり……。ヘブンってなんだよ。
「久遠さん、話飛びすぎですよー」
「みこと」
「……?」
「もうトモダチだろ。名前で呼べよ」
「――そんな、有名人を恐れ多い……」
 ちょっと、小さくなって言ってみた。全然聞く耳持たず、だ。
「尊……さん」
「まァ、いいだろ。……で、何をしたい?」
なんとなく、答えた。
「料理」
 尊が、ちょっと意外そうな顔をしている。あてつけっぽく思われただろうか?――そんなつもりはないんだけど。
「料理――そんなに好きか?」
「ええ、イッパイやると楽しくなってきますよ」
「ランナーズ・ハイみたいな感じ?」
「ちょっと似ているかもしれませんね」
 ――おもしろい喩え方だなあ。
「尊さんは?」
「ん? オレか」
「何をするんですか?」
「オレはスイーツを死ぬほど頂く」
 真顔で言ってる……。そんなにか。
「それもいいですねェ。質問ですけど、普段どういう食生活なさっているんですか?」


     ビタミンチャージ、混乱


 ――言ってみるもんだ。
 オレは遥を専属メシスタントにすることに、成功した。……なんて、狙ったわけじゃないけど。結果オーライって感じ?

「――普段どういう食生活なさっているんですか?」
「オレはすぐそこにある、某サブウェイで生きている」
ほとんどの食事がそのサンドイッチショップだ。……というか、スイーツが主食とか、死んでも言えそうにない空気だ。
「~~~。オトナの一人暮らしなら、ちゃんと食べなきゃダメですよ」
「じゃあ遥が作ってよ」
 ――ちょっとぽかんとした顔でも美人は美人なんだなァ……。
「……。まあ、バイトのない時なら」
「じゃ、決定な~。てかセラピストって社員じゃなかったのか?」
「社員だったらこの時間はまだ仕事中ですよ」
 なんだか、すこーしだけはぐらかされた感じだ。

 めちゃめちゃひとりっこ気質で、今まで従兄のヒロとしか、まともなトモダチ関係を築くことをしてこなかったオレ。サクサク話せていたのに、なんか急に話すのが怖くなった。

「さてと、そろそろ仕事しようかな」
「じゃあ、おいとまします」
「ごめんな。また、暇な時来てくれ。ちょっと下で待ってて」
「……?」
 ベッドサイドのチェストから、合鍵を持ってくる。ついでにアドレスを書いたメモも。
「これ、待ってるから」
 それだけ言い渡すと、オレは遥を追い出した。


ビタミンチャージ、安定


 手の中には鍵。まだ、あの空間につながっている。
 ――なんか。恋人ってこんな感じかな。
 とか、うっかり考えちゃったら最後。自分は正気か?と疑った。

 オレはフレンドリーな家庭に育ったから、比較的友達は多い方だった。でも、女顔がわざわいしてか、オレの理想が高かったせいか……、いままで彼女という存在がいたことはない。

――なんて恥ずかしいヤツなんだ……、オレ。
気を紛らわすには、何かに熱中するのがイチバンだっ!
ということで、オレはさっさとスーパーでの買い物に勤しむことにした。久しぶりに、まともな煮込み料理でも作ろうと思ったのだ。
――うまくできたら尊さんに、持って行ってやろうかな?
なんだか逆効果かもしれない……。

翌々日。
ブイヤベースの出来がなかなかだったので、持参して来たオレ。
――本当に鍵使っていいのかな?
ちょっと不安だったので、インターフォンを押してみた。
――出ない。
やっぱり鍵はちょっと恐れ多いので、メールしてみることにした。
『遥です。
ブイヤベース作ってきたんですけど、お出かけ中ですか?』
 すぐに返事が返ってきた。
『なんで、二日間もメールくれなかったんだ?』
 ――居場所は?
『すみません。鍵の印象が強すぎて、アドレス貰ったことうっかり忘れていました』
 ガチャ
 ドアが開いた。
「いたんですか……?」
「――いましたとも」
 彼はちょっと照れくさそうに、つぶやいた。

 早速キッチンで温めなおして、ダイニングで待つ尊さんにサーブした。
「遥も」
「はいはい」
――多分そういうと思ったんだよね。
 自分の分も、ちゃっかり準備しておいた。やんわり問いただす。
「なんで居留守使ったんですか?」
「……」
「尊さん?」
「遥、昨日バイトの後何していたんだ?」
昨日は、いつもの場所で少しだけダンスしていた。
「オレが質問しているんですけど」
まさかね……。もし、気がついたら普通声掛けるだろうし。
いつもは飄々としている尊さんの顔が少し歪んだ。
「遥、いつもあそこで踊ってるだろ」
「……!」
          ※
 ――怒るかな?
 俺だって一応作家だ。心を察することができなきゃ、小説は書けない。
 セラピストの遥と出逢う前から、ダンサーの遥を知っていたこと、話さないのはフェアじゃなかった。でも、いろんな表情をみせる遥の、もっといろんな面を知りたかったんだ。

「――はあ、びっくりした。オレの事知っていたんですね」
「ごめん。やけに綺麗な子が毎晩ダンスしているのは知っていたんだ」
 遥はかなり動揺しているようだ。顔が赤い。
「でも、いろんな先入観ナシで、話してみたくて……」
「……しょうがない人ですね」
――?
「これからはそういうの。ナシにしてくださいね」
「……! 許してくれるのか?」
「まあちょっとは腑に落ちませんが、というか、昨日はなんで声を掛けてくれなかったんですか?」
 今度はオレが動揺する番だ。
「あー……。まあな。」
「……?」
「体育館まで来ているんなら、帰りに寄ってくれると思ったんだ」
「……!」
「待ってたのに、来なかったから……」
 すげえ暴露させられてる気がするぜ……。もお。
「はー。せっかく作ってくれたの、冷めるから食ってもいいか?」
「あ! はいはい。どーぞどーぞ」


     ミントアイス・チャージ


 最近、よく夢をみる。前とは違う、良い夢だ。

「ハル君! これあげる」
「ひゃっ」
 頬に、なにか冷たいものを押し当てられた。思わず飛び起きる。
「ごめん、ごめん。そんなに驚くと思わなくて」
社員の、あやめサンだ。
 ここはRelaxerのスタッフルーム。結構広くて、椅子も三つ位は余裕だ。
「あ、ミントアイス」
「うん。ハル君これ好きでしょ?」
「まだ覚えていたんだ? ありがと」
 オレは真冬でもアイスを食べる。もともと普通に甘いものは好きだが、高校の頃にアイス屋でバイトしたら、ハマってしまったのだ。
「ここのアイドル、ハル君のことで忘れるわけがないでしょ」
「またまたぁ~、おだてたって何もないよ?」
「んー。また、ゴハン作ってくれたらおーるおっけー! 今日はどう?」
「あー、ゴメン。今日は違う人に作ってあげなきゃなんだ」
「えー、うっそー! ついに私の秘蔵っ子が誰かのモノになってしまうのね」
 泣き真似までしている。アップダウンの激しい姉さんだ。
「そんなんじゃないですってば~、あやめサン。しかも作る相手男ですし」
「そおなの?」
 泣き真似はぴたりとやんだ。しかも今度は、チェシャ猫スマイルだ。
「もしかしてこの間の、久遠尊?」
 なんという女の勘だ。恐ろしい……。
 「え、あー……、はいそうです」
 「あーうん、うん。久遠尊ならお姉さま、悦んで送り出しちゃうわ」
 ちょっともう、めんどくさくなってきた……。
 「そーでございますか」
 
 ちょうど休憩が終ったらしく、あっさり引き下がってくれた。よかった、よかった。
 ――はぁ。
 心の中で、溜息をつく。最近、脳内で心を乱されてばかりの、オレ。
 そうなのだ。夢はもっぱら、尊さんの夢だ。
 別に、何かを示唆している夢ではない。だけど、はじめて逢った日から三日と空けずに顔を合わせていると、いやでも脳にインプリンティングされてしまうらしい。
 もともと、日々の喜怒哀楽やストレスが、夢に反映されやすいタイプのオレは、今毎晩尊さんと逢っている……夢の中で。
 ペリッ
 プラスチックのスプーンで、ミントアイスを食べる。
 ひんやりしておいしい。
――ちょっと火照っていたのかな?


     オレハ滅多ニ人ヲ好キニナラナイ


 くんくん。イイ匂いだ。
 今日もバイト帰りに、遥がスーパーの袋を提げてやってきた。
「今日は、フリット茄子のトマトリゾット作りますね」
「うまそうだな」
「出来るまでお仕事していていいんですよ?」
 そういつも言ってくれるが、そんなつまらないことできるわけがない。
 料理している最中の、テキパキとした手の動きだとか、楽しそうな遥の笑顔だとか、観察しないともったいないじゃないか。――そろそろできあがりかな?
「あんまりじっと見るの、やめてもらえませんか?」
「おもしろいんだから、いいじゃないか」
 遥がちょっとむくれる。話を変えてみよう。
「そういえば遥のゴハンは、トマトとか魚貝とか多いな」
「トマトじゃないほうがいいですかねえ……?」
 今度はいきなり心配顔だ。おもしろい。
「いや、トマトも魚も大好きだから、心配しないでくれ。単に、思っただけだから」
「……それは、」
「それは?」
「オレは、フランス料理が好きなんです」
「フレンチ?」
「ええ。専門時代も、コースは西洋でしたし」
 ――へえ。ひたすらクールだなァ。
「いいじゃん。シェフにはならないの?」
「オレのレヴェルじゃたかが知れてるし……」
「そっかァ? オレの舌は満足させてるぜ?」
「……そんなに甘い世界じゃないんですよ」
 おっと雲行きが怪しい、回避せねば。
「ちょっとトイレ」
          ※
「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさま、デザートもありますよ」
「お、なに?」
ンは、そんなにいろいろできるのに、何が不満なんだろうか」
「どうしてそんなひどいこというの」
 八つ当りだと、自分でも薄々感づいていたが、衝動はとまらなかった
「遥、ほんとうはダンサーになりたかったんだろう?」
「尊には関係ないじゃないか! 人のプライバシーに介入するな!」
 遥は涙でぐしゃぐしゃだった。これはもう、言葉の暴力だ。
「遥は弱虫だ!」
 頭がガンガンする――。

 オレの悪い癖だ。
 滅多に何にも興味を惹かれることはないのに、一度気に入るとのめりこむ。
 
「ごめん」
 遥が言った。
オレ達は、傷悴していた。
「でも、オレは尊こそ嘘つきだとおもう」
 遥は出て行った。

 もう、戻らないかもしれない――。


     リバース、真実 ~super counseling time~


 久しぶりに姉さんと逢うことになった。家を出て以来だ。
 ――はやく逢いたいな。
 姉さんはオレのソウルメイトだとおもっている。

「おまたせ」
「久しぶり。元気?」
「私は元気よ。パパとママもさみしがっているけど、一応元気」
「そっか、よかった」
「でも、遥はあんまり元気じゃなさそうね」
「……」
 池袋のオープンテラスのカフェについた。
 ランチとは別に、二人でひとつ、大きなハニートーストを頼んだ。
「おっきーぃ」
「ほんとだ」
 相当な大きさだった。珠樹はナイフの扱いがあまりうまくないので、オレが切り分ける。
「おいしいねー」
「うん」
 珠樹がフォークを置いた。
「――ごめんね、遥。わたし、神さまじゃないから、遥が苦しんでいるのに助けてあげられないや」
――!
「何を……」
「遥、恋してるんじゃない?」
「――うん」
「そっか。――遥が誰かを好きになるの、わたしはじめて見たな」
「――うん、そうだね」
「遥、恋愛はだれでもするものよ。ふたりでするもの。ひとりじゃできない」
 姉さんの声が心地いい。
「……わたし、遥のダンスが見たいわ」

 西口公園。平日だから、人もまばらだ。
 珠樹のリクエストで、昔二人で踊ったジャズを合わせてみた。
 オレが最近踊っていたのよりも、ずっとテンポが速いダンスだ。
――ちょっとつらいな。
「現役バレエ講師をなめちゃダメよっ」
 笑いながら、珠樹は言った。
「そっちだって、息キレてんじゃん」
「言ったわねー」
 オレ達は、声をたてて笑いながらラストダンスをしていた。

――ハァ。
 二人とも頑張った。ミネラルウォーターを買ってきた。
「ハイ、姉さん」
「サンキュ」
 並んでベンチに座る。辺りには、たまに鳩がやってくるくらいだ。
「――もう、逃げないでしょう?」
「うん」
――もう逃げない。
 オレは、珠樹の様に講師になる道ではなく、プロダンサーになる道を選んだ。親の許しがでなかったからって、あきらめる必要はどこにもなかった。トライし続ければよかったんだ。
 だけど、自信のなかったオレは行動に移さなかった。――心のどこかで親のせいにして。

 そのまま、二番目に好きな料理の道を選んだ。
 でもまたオレは同じことを繰り返しそうになった。
 いつのまにか、料理が一番になっていたのに、それに目を向けないで、過去の微温湯に浸かって、逃げた。
 セラピストの仕事も好きだ。やりがいがある。――でも二番目だ。
 オレはアルコールが駄目だ。でも、アルコールを受け付けない人のためのフレンチなら作ることができるじゃないか。
「ヒトが何かに一生懸命になっている姿って、ヒトの心を動かすものよ」
「……ん」
「まあ、センセイになってやっとわかったことだけどね」
「いや、ありがとう」
 珠樹を見る。やさしい眼差しにぶつかった。

「わたし、遥のダンスのオーラが一番好きだったわ」


     リバース、混沌 ~super counseling time~


 珍しい奴がやってきた。やれやれだ。
「ハイハイ、そんな顔しないの」
「病院はどうしたんだよ、ヒロ」
 大事なオレんちを任せているはずなのだ。
「学会のついでにカワイイ従兄弟に逢いに来たんじゃないか!」
「コンニチワ、サヨウナラ」
「久しぶりだからってテレちゃって、カワイイな~」
 ――ハア、相変わらずだ。
「てか、まだロン毛なのかオマエ」
「あったりまえだよー? ヒロ兄の愛されロングは永遠だよ」
はああ? マッドなのも相変わらずか!
中島浩司(31)多分独身、職業医師。一応世間でいうところの三高以上のものはある男だ。
こいつが件の従兄だ。
「あんまり馬鹿ばっか言ってんなよ」
「いやマジで、もしかしたらこれのせいで、今のオレはいなかったかもしれないんだから、絶対に切るわけないよ」
「何だソレ」
「……引っ越したって聞いて、そろそろ本当のところを言っとこうと思ってね」

 まだ、ぼんやりとしていた。
 過ぎ去ったオレの過去の悩んだ分を考えると、ちょっとなんとも言えない部分もあるが、今気づけたということは、ギリギリセーフの域だろう。

 オレは純粋な日本人じゃない。いわゆる、クォーターだ。まあ、これは小さい頃から承知していた。
 若かりし母と、ハーフの恋人との間に生まれたのがオレだ。
 母の恋人は、オレが腹の中にいる時に事故死した。そんな母を放ってはおけないと、幼馴染だった医師の父は母と結婚した。
 まあよくありがちな、良い話だ。両親の結婚生活も、子供心に微笑ましかった。
 オレが中学の時に、母が病気で死んだ。このあと、ちょっと父と距離ができた。
 一方で興味はないが、恩返しとして一応病院を継ぐつもりだった。
 ――まあ、結局のところ継がなかったんだけど。
「赤ワインのゼリーです」
「それ好き」
「知っていますとも」
 遥が冷蔵庫から、オレのフェイバリットスイーツに仲間入りしているゼリーを持ってきてくれた。
「ではもういちど」
「いっただきまーす」
 オレが音頭を取って二人でなかよく挨拶をする。
 パク
 ん? いつもと味が違う。というか、ワインがダイレクトに香っている。
「遥、これ。アルコール飛んでないぞ?」
「やっちゃった……」
 ……。遥の目元がめちゃめちゃとろんとしていた。
「もしかして、アルコール駄目なヒト?」
「やや……」
 結構弱そうだ。
「もしかしなくても、それがシェフにならなかった原因?」
「よくわかりましたねー」
 すっごく楽しそうだ。
「こっちおいで」
 遥を抱えて、リビングのソファに座らせる。
「おまえ、大丈夫かよ……」
 今度は少し、泣いていた。
「表情がさらに強く出るのな」
涙が一筋落ちた。
――どうして。
しずくを吸ってみた。なにか心の奥の方がおおきく動いた気がしたが、よくわからない。
「あんまり、あまやかさないで」
 オレは、自分の心が読めなくて、少し……いやかなりイライラしていた。

「ダンサーでセラピストで料理もできる遥チャンは、そんなにいろいろできるのに、何が不満なんだろうか」
「どうしてそんなひどいこというの」
 八つ当りだと、自分でも薄々感づいていたが、衝動はとまらなかった
「遥、ほんとうはダンサーになりたかったんだろう?」
「尊には関係ないじゃないか! 人のプライバシーに介入するな!」
 遥は涙でぐしゃぐしゃだった。これはもう、言葉の暴力だ。
「遥は弱虫だ!」
 頭がガンガンする――。

 オレの悪い癖だ。
 滅多に何にも興味を惹かれることはないのに、一度気に入るとのめりこむ。
 
「ごめん」
 遥が言った。
オレ達は、傷悴していた。
「でも、オレは尊こそ嘘つきだとおもう」
 遥は出て行った。

 もう、戻らないかもしれない――。



 リバース、真実 ~super counseling time~


 久しぶりに姉さんと逢うことになった。家を出て以来だ。
 ――はやく逢いたいな。
 姉さんはオレのソウルメイトだとおもっている。

「おまたせ」
「久しぶり。元気?」
「私は元気よ。パパとママもさみしがっているけど、一応元気」
「そっか、よかった」
「でも、遥はあんまり元気じゃなさそうね」
「……」
 池袋のオープンテラスのカフェについた。
 ランチとは別に、二人でひとつ、大きなハニートーストを頼んだ。
「おっきーぃ」
「ほんとだ」
 相当な大きさだった。珠樹はナイフの扱いがあまりうまくないので、オレが切り分ける。
「おいしいねー」
「うん」
 珠樹がフォークを置いた。
「――ごめんね、遥。わたし、神さまじゃないから、遥が苦しんでいるのに助けてあげられないや」
――!
「何を……」
「遥、恋してるんじゃない?」
「――うん」
「そっか。――遥が誰かを好きになるの、わたしはじめて見たな」
「――うん、そうだね」
「遥、恋愛はだれでもするものよ。ふたりでするもの。ひとりじゃできない」
 姉さんの声が心地いい。
「……わたし、遥のダンスが見たいわ」

 西口公園。平日だから、人もまばらだ。
 珠樹のリクエストで、昔二人で踊ったジャズを合わせてみた。
 オレが最近踊っていたのよりも、ずっとテンポが速いダンスだ。
――ちょっとつらいな。
「現役バレエ講師をなめちゃダメよっ」
 笑いながら、珠樹は言った。
「そっちだって、息キレてんじゃん」
「言ったわねー」
 オレ達は、声をたてて笑いながらラストダンスをしていた。

――ハァ。
 二人とも頑張った。ミネラルウォーターを買ってきた。
「ハイ、姉さん」
「サンキュ」
 並んでベンチに座る。辺りには、たまに鳩がやってくるくらいだ。
「――もう、逃げないでしょう?」
「うん」
――もう逃げない。
 オレは、珠樹の様に講師になる道ではなく、プロダンサーになる道を選んだ。親の許しがでなかったからって、あきらめる必要はどこにもなかった。トライし続ければよかったんだ。
 だけど、自信のなかったオレは行動に移さなかった。――心のどこかで親のせいにして。

 そのまま、二番目に好きな料理の道を選んだ。
 でもまたオレは同じことを繰り返しそうになった。
 いつのまにか、料理が一番になっていたのに、それに目を向けないで、過去の微温湯に浸かって、逃げた。
 セラピストの仕事も好きだ。やりがいがある。――でも二番目だ。
 オレはアルコールが駄目だ。でも、アルコールを受け付けない人のためのフレンチなら作ることができるじゃないか。
「ヒトが何かに一生懸命になっている姿って、ヒトの心を動かすものよ」
「……ん」
「まあ、センセイになってやっとわかったことだけどね」
「いや、ありがとう」
 珠樹を見る。やさしい眼差しにぶつかった。

「わたし、遥のダンスのオーラが一番好きだったわ。」



 リバース、混沌 ~super


 珍しい奴がやってきた。やれやれだ。
「ハイハイ、そんな顔しないの」
「病院はどうしたんだよ、ヒロ」
 大事なオレんちを任せているはずなのだ。
「学会のついでにカワイイ従兄弟に逢いに来たんじゃないか!」
「コンニチワ、サヨウナラ」
「久しぶりだからってテレちゃって、カワイイな~」
 ――ハア、相変わらずだ。
「てか、まだロン毛なのかオマエ」
「あったりまえだよー? ヒロ兄の愛されロングは永遠だよ」
はああ? マッドなのも相変わらずか!
中島浩司(31)多分独身、職業医師。一応世間でいうところの三高以上のものはある男だ。
こいつが件の従兄だ。
「あんまり馬鹿ばっか言ってんなよ」
「いやマジで、もしかしたらこれのせいで、今のオレはいなかったかもしれないんだから、絶対に切るわけないよ」
「何だソレ」
「……引っ越したって聞いて、そろそろ本当のところを言っとこうと思ってね」

 まだ、ぼんやりとしていた。
 過ぎ去ったオレの過去の悩んだ分を考えると、ちょっとなんとも言えない部分もあるが、今気づけたということは、ギリギリセーフの域だろう。

 オレは純粋な日本人じゃない。いわゆる、クォーターだ。まあ、これは小さい頃から承知していた。
 若かりし母と、ハーフの恋人との間に生まれたのがオレだ。
 母の恋人は、オレが腹の中にいる時に事故死した。そんな母を放ってはおけないと、幼馴染だった医師の父は母と結婚した。
 まあよくありがちな、良い話だ。両親の結婚生活も、子供心に微笑ましかった。
 オレが中学の時に、母が病気で死んだ。このあと、ちょっと父と距離ができた。
 一方で興味はないが、恩返しとして一応病院を継ぐつもりだった。
 ――まあ、結局のところ継がなかったんだけど。

 何故なら、父方の従兄のあいつが代わりに継いでくれたからだ。
 本当は、オレに継がせる予定だったらしい。
 
 オレは、母が亡くなった後、ずっと父を疑って生きてきた。
 だって、母が亡くなった後、オレを手元に置く理由がないじゃないか?
 母のことは昔から好きだったらしいから、未亡人になった母を助けたのは解る。
 ――でも、オレは?

 いや、わかっている。
 オレが見て見ぬふりをしていただけだって。
 父はずっとオレを愛してくれていた。信じられなかったのはオレだけだ。
 父は医師としても立派な人だったから、中途半端な気持ちで、臨床に携わってほしくはなかったのだろう。現に、オレは心理の分野でうまくいった。父の人を見る目は正しかったのだ。
 つまるところ、オレと父のコミュニケーション不足が原因だった。
 引っ越しも、父の金で買ったマンションを、早く卒業したかった気持ちの表れだろう。

 ヒロがオレにわざわざ伝えに来た内容が、一番の傑作だ。
「オレは小さな尊の一言のおかげで、あの病院継げたんだよ」
「意味わかんね―よ」
「親父さんは、最後までお前に継がせようと思ってたんだよ」
「そうかよ」
「デリケートだからあんまり臨床向きじゃないとか可愛いこと言ってたけど、おまえが心理に興味持ってるのもちゃんと知っていたぜ」
「――まさか」
「いや、あの人は結構よくみてるぜ? オレのこの髪も最後まで嫌がったけどな」
「そりゃおまえ、医者向きじゃないだろ」
チッチッチ、とポーズをとるヒロ。
「わかってないねー。てか忘れてんのかよ! お前がヒロ兄ちゃんの髪の毛かっこいいとかいったから、オレずっとロングなんだぜ!」
 ――まじかよ。
「んなの覚えてねーよ」
「親父さんは覚えていたんだぞ、確かに三人で居たときに言ったからな」
「え……」
――オヤジ。変なこと覚えてんなよ……。

馬鹿ヒロは、
「たまには帰ってこいよ~! 親父さん待ってるぞ。あとなー。悩むのはいいことだぞ~」
とか、のたまって帰って行った――。
          ※
一方オレは、馬鹿が帰って、また淋しさが戻ってきた。
もう一週間も、遥に逢っていない。

――ごめんな……遥。
オレ、世の中には複雑な気持ちがあるってこと、頭では理解していたけど、ぶっちゃけよくわかってなかったんだ。当事者にならないとわからない、それがよくわかった。
おもいあがり、そして、おもいこみ。これがあったから、オレの小説は、なんだか薄っぺらだったんだな。目を向けないとわからないことって、世の中多いんだな……。
人を信じることができないオレが、人を愛そうとするから歪んでいたんだ。
――こんな俺には、遥を好きになる資格なんてない。


     シークレット、花の咲く場所


 ――はやくっ!
 早く、尊さんに逢いたくて仕方がなかった。
 鍵を取り出す。
 ガチャ
「――また、戻ってきたのか?」
――また?
でもそんなの全然気にしない。
「尊さん!」
「――はるか?」
 
 上から聴こえた。階段を昇る。
 目に入ったダイヤのピアスに、思わずキスをする。
「ごめんなさい、生意気言って――」
「……ほんとうに?」
「ええ、オレ、反省したんです。嘘つきはオレ……」
 最後まで言えなかった。すごい力で、ハグされている。
「ちょ、くるしいですー」
「やだ、離さない」
――でも、好き。

藍のベッドルーム。オレの首筋に顔をうずめる尊。
 ――愛している。
 あんまりにも綺麗な尊の前に、オレの肌を晒すのは恥ずかしい。
「遥、はるか」
「んう……」
 唇をむさぼられる。舌まで入ってきた。頭の中が真っ白になる。
――こんなの初めてだ。
 尊の手は素早くオレの胸元を愛撫する。
「は……ああ……」
 乳首って感じるんだな……などと、考えている場合じゃなかったらしい。今度はいきなり、オレのアソコに顔をうずめる尊。
「ちょっとなにやってるの、尊さんッ」
「何って、フェラ?」
「ちょ、まっ……! ああ……!」
触られるのすら初めてなのに、いきなりオーラルセックスとか無理だ……。
「んっ……ふ……」
 なんだか苦しげだ。ものすごく申し訳ない。
 うっかり、自分のアレを銜える、尊のエロい顔を見てしまった。
 ――ちょ、鼻血でそう……。
「う……、ああっ……」
 尊さんがスパートをかけてきた。オレは正気を手放す事にした。

 ――可愛い声だなァ……。
 耳障りが優しい、もともと綺麗なアルトの声が、さらに輝きを増してたなびく。色白の肌は、もう白桃みたい……。ちょっと、肩を。
 ――かじっちゃえ。
「あう……、かじらないで」
「無理だね」
 遥の普段使いの柑橘系のオーデ・コロンのイイ香りがする。もっと欲しい。
「遥、愛してる」
 ――もう、遥以外なんにもいらない。
 こんな風に、アタマからっぽで何かに打ち込むなんて、ひさしぶりだなァ……なんて、オレは幸せを噛みしめる。
          ※
「ボディクリームしかないんだけど……」
「痛くなきゃ、いいです」
 お互い、存在が確かめられればなんでもいいって感じだ。
 でもオレは、ヴァージンだから、あんまり痛いのはちょっと……。
 尊が、ボディクリームを手で温めて、オレの太ももをさすり始めた。、粘膜に指がかかる。
「あ……」
「きもちわるいか?」
「よく……わかりませっ」
 やがて、二本くらいの指で、ちょっとゴーインにこねまわされる。
――ちょっと変な感じかも……。
「んっ……ん……」
 ――な、なにこれ……。
 急に、体がびくびくしはじめた。
「感じてきたな?」
 ――そうなのかな……?
 すると、指を抜かれて、脚を尊の手で支えられた。
 ――マジマジすげー恥ずかしい……。
 後ろに、尊のがスタンバイしてる。腹をくくった。
「遥、だいじょうぶか?」
 そろりそろり、入ってきてくれる。まだ、だいじょうぶだ。
「ハイ……ああっ……」
 太いとこが、ちょっと、いやかなりくるしい……。
「く、ううっ……はあ……」
「ごめんな、遥」
 ――だいじょうぶ、すき……。
「あ……っ、ああっ……ひゃ……」
 尊が動き始めた……。最初はなんかぐるんぐるんしてたけど、だんだん摩擦が気持ち良くなってきた……かも。たまに、痛いけど。
「はあっ……いや……」
「いやか?」
「いや……、やめないで」
 思わず、ぎゅっと抱きしめた。
「尊……、愛してる」
 急におっきくなった。
「ひっ……!」
ガンガンと腰を動かしてくる。
――もう無理……。
「くうっ……んん……!」
「はるかっ」
「あ……、あうっ……」
「くっ!」
「あああっ……」
 尊が、もう一度抱きしめてくれた――。

 
     スーパー・ハッピーエンド


 一緒にシャワーを浴びて、遥にはオレのパジャマを着せた。
 ――かわいい。
「ありがとう」
 オレの口から、ポンとでた。
「オレも……、ありがとう」
「遥……」
 カモマイルミルクティーを淹れた。料理はしないが、お茶ならいくらでも出せる。
 リビングのソファに一緒に座る。
「オレね、よくばりなんです……」
「本当によくばりな人は、そんなこといわないよ」
「いえ。いままで、いろんなことが、なんとなくできたせいであんまり深く考えてこなかった、逃げてばかりいたんです」
「おまえ……」
 ――そんなに、自分を責めなくていい。
「でも、もうはっきりわかったので、やめます。オレ、自分で選ぶことにしました」
「遥……?」
「自分の人生です。だから、何かを選ぶことだけは、人任せじゃいけない。自分でやるんです」
「遥……」


「オレは今まで、自分はひとりだと思っていた所があるんです」
「――?」
「でも、もう人を好きになってしまった。孤独にはもう戻れない……」
「ああ」
「抱きしめてください……」


「なんで、ずっと伝わらないんだ……って思ってたんだ」
「――?」
「こんなに好きなのに! ……もう離せないくらい。なのに、自分が誰かを好きになるなんて、考えたこともなかったんだ。」
「ええ……」
「自分の存在理由もわからないし、人を心から信じることも、オレには難しかった……」
「そう」
「ずっと考えていた――」
「……、これからは、オレと一緒に生きてみませんか?」




遥は、フレンチを短期で習得するため、一年だけオレの元を離れた。
すごく淋しかったが、その一年で、オレはまたベストセラーを出した。

今はもう、だいじょうぶ。
きっと未来が、まっているから――。

                                   Fin.




















もくじ

千駄ヶ谷、はじまりの場所

ジャスミン、月夜に咲く

箱庭、花のある場所

ディアマン達のカフェタイム

ビタミンチャージ、混乱

ビタミンチャージ、安定

ミントアイス・チャージ

オレハ滅多ニ人ヲ好キニナラナイ

リバース、真実 ~super counseling time~

リバース、混沌 ~super counseling time~

シークレット、花の咲く場所

スーパー・ハッピーエンド

テーマ : 自作BL小説 - ジャンル : 小説・文学